『国境ナイトクルージング』(原題:燃冬)
監督:アンソニー・チェン
出演:チョウ・ドンユイ,リウ・ハオラン,チュー・チューシャオ他
なんばパークスシネマにて。
シンガポール出身のアンソニー・チェン監督による中国/シンガポール作品。
時間をつぶすために観光ツアーに参加、ガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)と出会う。
土産物店で買い物しようとしたさいに、スマホがないことに気づいて焦るハオフォン。
身ひとつでツアーに参加したものだから、スマホがなければ何もできない。
ナナはあまり手持ちがないけれどと言いつつ、ハオフォンに金を貸してくれる。
ハオフォンの滞在先のホテル前までナナと共に歩いてお別れとなるはずが、ナナから食事に誘われ、
行ってみるとそこにはナナの男友だちで料理人のシャオ(チュー・チューシャオ)もいた。
シャオとナナの案内で延吉を見てまわることになったハオフォンは……。
ハオフォンは良い大学を出て金融関係の会社に勤めるエリートで、
ナナたちには一生買えないような高価な腕時計も持っている。
しかし何があったのか表情は暗く、時折死ぬことも考えている様子。
ナナはフィギュアスケートの選手だったようで、怪我で選手生命を絶たれたらしい。
シャオがいちばん能天気に見えますが、延吉から出たことのない朝鮮族。
朝鮮族の歴史を私はほとんど知りませんが、映画の中に出てくる彼らはたいてい悲惨です。
シャオはナナに片想いしているから、ハオフォンの登場は決して嬉しくないのでしょうが、
やっかみの気持ちをあらわにすることなどないイイ奴で、
それどころかハオフォンに延吉を楽しんでもらおうと案内を買って出ます。
ハオフォンは余裕のある生活をしているし、シャオとナナはそうとは言えずとも自由に生きている。
けれどもそれぞれに辛い過去や表現しようのない苦しさ、誰にも言えない悩みがあって、
それを抑えながらどうにかこうにか毎日を送っている。
全編を通して伝わってくる切なさがとても好きでした。
いわばこれも「芥川賞的」となるのでしょうが、私にとっては胸を打つ作品でした。
チョウ・ドンユイ主演の作品は『ソウルメイト/七月と安生』(2016)といい『少年の君』(2019)といい、たまらない。