夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『カミハテ商店』

2013年01月11日 | 映画(か行)
『カミハテ商店』
監督:山本起也
出演:高橋惠子,寺島進,あがた森魚,水上竜士,松尾貴史他

前述の『マリー・アントワネットに別れをつげて』を観たあと、
30年来のつきあいの友だちとランチ。
昼間からふたりでワインを1本空けて、ちょい酔っぱらった状態。
夕方からナナゲイで観るつもりだった本作に彼女もつきあってくれるというので、一緒に十三へ。

彼女と一緒に映画を観るのは25年ぶりぐらいな気が。
以前一緒に観たのはたぶん『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981)とか、
マドンナの“Crazy for You”が使用された『ビジョン・クエスト/青春の賭け』(1985)とか。
強烈に印象に残っているのは試写会で観た『隣の女』(1981)。
まだウブな(?)高校生には内容がヘヴィーすぎて疲れた思い出があります。

酔っ払いふたりにはちょっと眠たくなる出だしでしたが、
友だち曰く、本作は「スピードが遅めのストレート」。言い得て妙。

プロと学生が映画を共同で企画・製作することをテーマとした、
京都造形芸術大学映画学科によるプロジェクト“北白川派映画芸術運動”により製作された作品。
実際に上終町(かみはてちょう)という地名が京都にあると聞いていましたが、
勝手に丹後半島かどこかだと思い込んでいました。
そうしたら、左京区の北白川に「上終町京都造形芸大前」というバス停があるそうで。
けれどもロケ地は上終町ではなく、もっと寒々としたイメージの隠岐郡海士町です。

山陰の小さな港町、上終で商店を営む初老の女性、千代。
無愛想で気むずかしい彼女の店にやってくるのは、
牛乳配達の自閉症の青年と町役場の福祉課の職員ぐらい。

ところがいつの頃からか、住民ではない客がしばしば訪ねてくるようになる。
というのも、千代の店のすぐ先にある断崖絶壁が自殺の名所になってしまったから。
店から見えるバスのロータリーに見慣れぬ者が降り立てば、まずまちがいなく自殺志願者。
彼らはなぜか必ず千代の店に立ち寄り、
最後の晩餐のごとく千代が焼いたコッペパンと牛乳を買い求める。
崖から飛び込むために上終に来たのだと気づいても千代は引き止めない。
むしろ突き放すかのようで、愛想なく振る舞うだけ。

一方、千代の弟の良雄は都会で事務用品納入業を営んでいるが、
何もかも上手く行かなくて疲労困憊。
そんなとき、行きつけのスナックでシングルマザーのホステス、さわと親しくなり、
これまた愛想のないさわの娘にかまい始めるのだが……。

自殺者を否応なく見届ける役目になってしまった千代は、
無表情のなかにももどかしさややるせなさが感じられ、
演じる高橋恵子に心を揺さぶられます。
バスの運転手役のあがた森魚のひと言にもグッと来ました。
止める止めないをどう決める。死ぬのを思いとどまるのはどんなとき。
そんなことをいろいろ考えさせられます。

東京芸術大学にも学生の映画製作プロジェクトがありましたが、
京都造形大学もやるなぁと嬉しくなりました。

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『マリー・アントワネットに別れをつげて』

2013年01月09日 | 映画(ま行)
『マリー・アントワネットに別れをつげて』(原題:Les Adieux à la Reine)
監督:ブノワ・ジャコー
出演:レア・セドゥ,ダイアン・クルーガー,ヴィルジニー・ルドワイヤン,
   グザヴィエ・ボーヴォワ,ノエミ・ルボフスキー他

まだ新年に観た作品には移れず、これも旧年中に観たものです。
大阪ステーションシティシネマにて、現在も上映中のフランス/スペイン作品。

1789年のフランス、パリのベルサイユ宮殿。
王妃マリー・アントワネットに本を読み聞かせる“読書係”を務めるシドニーは、
王妃のためならばどんなことも厭わないほど、王妃に心酔している。

当の王妃は取り巻きのひとりであるポリニャック夫人に首ったけで、
夫人に恋い焦がれる気持ちを隠そうとすらしないが、
それでもシドニーの王妃に対する想いが揺らぐことはない。
シドニーは、さまざまな係を務める女性たちの噂話に耳を傾けつつも、
積極的に自分の話をすることはなく、図書室の老人とたまに言葉を交わす程度。
ひたすら王妃を想い、王妃のために仕事をこなす。

そんな折り、絶対王政に反発する民衆がバスティーユ牢獄を襲撃。
バスティーユは陥落し、ギロチンにかけるべき者として286名のリストが出回る。
そのリストに王妃はもちろんのことポリニャック夫人の名前も。
リストに挙げられた貴族たちは次々と宮廷から逃げ出し、
ポリニャック夫人もさっさと王妃を見捨てて去ろうとする。

にもかかわらず、夫人の身を案じる王妃は、夫人に同行せよとシドニーに命令。
しかも夫人の服を着用するようにと言う。
つまりは誰かに襲撃されたさいには夫人の身代わりになれということ。
瞳に涙をいっぱい溜めたまま、シドニーは夫人の服に着替える。

ありゃ、あらすじってこれで全部ですね。(^^;
特に劇場で観るべき作品でもなかったとは思いますが、
ベルサイユ宮殿の雰囲気や衣装が華々しく、
『ベルサイユのばら』がそのまま思い出されて嬉しくなりました。
ポリニャック夫人、いたいた、プチ・トリアノン宮殿、あったあった、てな感じで。

見どころはなんといってもレア・セドゥのハダカでしょう。(^o^)
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)の女殺し屋、
『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)の可憐な売り子。
華奢なイメージだったのに脱いだら意外に迫力があってビックリ。
だけど、キャリー・マリガンの垂れ乳のようにガッカリではないと思います。

漫画はほとんど処分してしまいましたが、
手元に残してある『ベルサイユのばら』、もういっぺん読もうっと。

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『グッモーエビアン!』

2013年01月07日 | 映画(か行)
『グッモーエビアン!』
監督:山本透
出演:麻生久美子,大泉洋,三吉彩花,能年玲奈,塚地武雅,小池栄子,土屋アンナ他

前述の『菖蒲』の次、シネ・リーブル神戸の3本目がこれでした。
ほかにも上映劇場はあったけれど、1本目と3本目が狙いならここでまとめて観られますから。

原作は未読ですが、吉川トリコの同名小説。
『ふがいない僕は空を見た』と同じくR-18文学賞の受賞作家ですね。
意味不明のこのタイトル、原作を読んだ人はご存じでしょうが、
映画の中でもかなり早めに明かされて、なんだそういうことか。

中学3年生の女子、ハツキは、17歳で自分を産んだ母親アキと二人暮らし。
かつてのアキはパンクバンドのギタリスト。
同じバンドのボーカリストであるヤグは、アキのことが大好きで、
父親でもないのにアキがハツキを身ごもっているときから一緒に暮らしていた。
ハツキが生まれてからももちろん一緒、ハチャメチャな毎日。

そんなヤグは2年前、「世界ツアーに出る」と言って家を出たきり。
とはいうものの、行く先々から思い出したように葉書が届き、
こいつはアホだバカだと言いつつ、嬉しそうにそれを見つめるアキ。
しっかり者のハツキは勉強に家事に頑張り、笑顔でアキを支えている。

そしてある日突然、ヤグが放浪の旅から帰ってくる。
ひたすらにぎやかなヤグとそれを無条件に受け入れるアキは、
ハツキから見ればふたりそろってどこまでも能天気。
担任教師からは進路を決めるように言われ、
家計の心配もしなければならないハツキはイラついて……。

総合的にはとても楽しめる良作でしたが、私は本作の麻生久美子はイマイチ。
いつも自然体で可愛く、同性からも好感度の高い人だと思います。
実際、『おと・な・り』(2009)、『インスタント沼』(2009)、
それに作品自体はゲンナリだった『ロック わんこの島』(2011)ですら彼女はよかった。
けれどもこれはちょっと自然体に見せすぎなところがちと鼻についたような。
ハツキが三者面談があるということを言いかけたときに、
ろくに話を聞きもせずに「ムリムリ」とテキトーなところなどは実に腹立たしい。
小池栄子演じる担任教師のほうを嫌な先生として描きたかったかもしれませんが、
これは正直、小池栄子に同情しましたね。

対してヤグ、彼を演じる大泉洋は、『しあわせのパン』(2011)のような、
あまり冗談は言わない物静かな男性役よりもこっちのほうが断然イイ。
ハツキ役の三吉彩花も可愛いし、彼女の親友役の能年玲奈も可愛すぎ。
どこで見た子だっけと思ったら、『カラスの親指』(2012)のまひろちゃんでした。
今春からのNHK朝の連ドラ『あまちゃん』のヒロインに決定しているそうで。

と、麻生久美子に文句を垂れてみましたが、そういう役なんだから彼女に罪はない。(^^;
腹立たしくなってしまうところもあるほど演技上手ということで。

印象に残る台詞もたくさん。
「『さよなら』と『ありがとう』は言えるときに言わなきゃ駄目」。
それ以上に印象的だったのが、
「弦の切れたギターなんて弁当箱にもならねぇ」。確かに。

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『菖蒲』

2013年01月05日 | 映画(さ行)
『菖蒲』(原題:Tatarak)
監督:アンジェイ・ワイダ
出演:クリスティナ・ヤンダ,パヴェウ・シャイダ,ヤン・エングレルト,
   ヤドヴィガ・ヤンコフスカ=チェシラク,ユリア・ピェトルハ他

前述の『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』に続き、シネ・リーブル神戸にて。
梅田ではなくわざわざ神戸まで行ったのは本作のせいではありません。
3本観る時間があったので、1本目と3本目の間を埋めるため、
そして、1本目で獲得したポイントで観たため、これはタダでした。

ポーランドの巨匠、御年86歳の巨匠アンジェイ・ワイダ監督。
本作撮影中に予想外のことが起きたせいかおかげか、変則的な構造になっています。
その変則についていけなかった私は、つまらなかったとも言いがたく、
ただただ不思議な作品だったとしか言いようがありません。

フィクションとそのメイキングシーンとドキュメンタリーで構成されています。
監督が本作を撮りはじめたときは、普通にドラマを撮るつもりだったのでしょう。
基になっているのは、同国を代表する作家ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチの同名短編。
まずそのフィクションの部分のあらすじを。

小さな町に暮らす医師とその妻マルタという夫婦。
2人の息子をワルシャワ蜂起で失い、夫婦の間には溝ができてしまう。
お互いにいたわり合いながらも、常に心にすきま風が吹いている。
夫は自身が病魔に冒されていることを知るが、妻に言い出せない。
一方のマルタは近隣に住む青年ボクシと出会い、惹かれてゆくのだが……。
こんな感じの物語です。

さて、こんなドラマの撮影中に何が起きたかと言うと、
マルタ役の主演女優クリスティナ・ヤンダの夫であり、
監督の盟友でもあったカメラマンのエドヴァルト・クウォシンスキが病死。
そこで当初の構想を大きく変更したようなのです。

クリスティナが夫エドヴァルトについて独白するシーンと、
ドラマのメイキングシーンが追加され、それが入り乱れます。
ドラマなのかドキュメンタリーなのか判断しづらいシーンもあり、
私には簡単な話なのか難解な話なのかすら理解できず。
自分がアホなんじゃないかと思いましたね。(^^;

マルタと、マルタを演じるクリスティナと、どちらが本物?
どちらも芝居がかっているような気がして、
大女優は根っからこうなのかと思えなくもないのですが戸惑います。

ひとつ、あらためて気づいたことが。
私は「オッサンの妄想」以上に「オバハンの妄想」=「若い男に媚びるオバハン」が苦手なようで。(^^;
本作ではマルタがボクシの体に見とれたり触れたり、
いきなりその背中に抱きついたりするシーンがありますが、
正直言って気持ち悪くて見ていられません。
これで「マルタとボクシはお互いに惹かれ合い……」なんていうのは無理があります。

映画としてはおもしろい試みだと思いますが、
誰かの死によって企画が持ち上がったという作品であれば、
これよりも『監督失格』(2011)のほうがずっと好きでした。
世界に名だたる巨匠と、AV監督を比べちゃ駄目ですか。(^^;

う~ん、でも、オバハンの妄想っぽくなければ、もう少し感慨深かったのかも。
ゴメンナサイ。

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『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』

2013年01月03日 | 映画(さ行)

『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』(原題:Comme un Chef)
監督:ダニエル・コーエン
出演:ジャン・レノ,ミカエル・ユーン,ラファエル・アゴゲ,
   ジュリアン・ボワッスリエ,サロメ・ステヴナン他

前述の『レ・ミゼラブル』の翌日、シネ・リーブル神戸にて。

シネ・リーブルのシネマポイントカードが昨年末にて終了しました。
あと1本観れば1本無料になる程度のポイントが貯まっていたので、
有効な間に2本以上観ることに。
本作は梅田・神戸の両方で上映中で、どちらで観てもよかったのですが、
ハシゴしたいものを考えて、『孤島の王』(2010)以来の神戸に決定。

パリ有数の高級フレンチレストラン“カルゴ・ラガルド”。
15年にわたってミシュランの三ツ星を獲得しつづけている。
老年の域に差しかかったシェフのアレクサンドルは、
レギュラーでTVの料理番組を持つほどの人気者だが、最近スランプ気味。
もうじき覆面調査員が来店するはずだが、新メニューが思い浮かばない。

レストランのオーナーを務めるのは、傲慢このうえないスタニスラス。
父親の早い引退によりこの店を引き継いだが、料理のことはまるでわかっちゃいない。
アレクサンドルの料理をけなしつづけ、もしも星を落とせばクビだと通告。
そんな言い草に脅えたくはないが、内心あせるアレクサンドル。

さて、そのアレクサンドルを崇拝し、
彼が過去につくった全料理のレシピを完全に記憶している青年ジャッキー。
一流の舌と天才的な料理の腕前を持っているが、
どんな店に勤めようとも、客のチョイスに口出しせずにはいられないため、
トラブルを起こしてただちにクビになる困った男。
妊娠中の婚約者ベアトリスから、せめて半年は定職に就いてほしいと懇願され、
彼女の紹介により、老人ホームの窓枠のペンキ塗りに就くことに。

とりあえずは真面目にペンキ塗りを始めたものの、
老人ホームの厨房を覗けば、料理人連中の手際が気になって仕方がない。
アドバイスがてら、アレクサンドルの番組を一緒に見るのが日課になる。

その老人ホームに入居していたのがかつての“カルゴ・ラガルド”のオーナー、
つまりはスタニスラスの父親。
ある日、ジャッキーがつくった料理を口にして目を丸くする。
たまたまそこへやってきたアレクサンドルに一口勧めるとやはり仰天。
それは全盛期のアレクサンドルの料理と瓜二つだったのだ。

スタニスラスの陰謀でちょうど助手を失ったところのアレクサンドルは、
ペンキを塗っていたジャッキーを即スカウト。
試用期間中は無給だという事実はベアトリスには伏せて、
ジャッキーはアレクサンドルの助手を引き受けるのだが……。

覆面調査員が「分子料理」好きだと聞き、分子料理に手を出すところは、
星を維持するためにはここまでしないと駄目なんだなぁと、
笑いたいような笑えないような。
これについては分子料理といえばこのお店、
『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(2011)と併せてどうぞ。

老人ホームの料理人たちがめちゃ愉快。
元タイル職人にトラック運転手、メイクアップ師で、
まるで頼りにならない助っ人たちが笑わせてくれます。

日本人に化けたジャッキーが着物姿で合わせて踊るのは放送禁止歌の『竹田の子守唄』。
これは外国映画に登場する変な日本人そのまんまでしたけれど、
重たいところは何もなし、サクッと観られるコメディです。
おなが空いたらどうぞ。


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