夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『もうひとりのシェイクスピア』

2013年01月21日 | 映画(ま行)
『もうひとりのシェイクスピア』(原題:Anonymous)
監督:ローランド・エメリッヒ
出演:リス・エヴァンス,ヴァネッサ・レッドグレーヴ,デヴィッド・シューリス,
   ゼイヴィア・サミュエル,セバスチャン・アルメストロ,エドワード・ホッグ他

前述の『LOOPER/ルーパー』とハシゴ。
1,000円だと聞いてポイントで観るのを止めて現金で。
TOHOシネマズなんば本館から別館へ移動しました。

原題は“Anonymous(=匿名の)”、イギリス/ドイツ作品です。
『インデペンデンス・デイ』(1996)や『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)、
『2012』(2009)などのローランド・エメリッヒ監督が、
なぜに今ごろSFパニックではなく歴史ミステリーに目覚めたのか不思議ですが、
脚本自体は『恋におちたシェイクスピア』(1998)と同時期に書き上げられていたそうで、
公開について先を越されたために企画が棚上げされてしまったのだとか。
15年近く経ってようやく日の目を見たのですね。

16世紀末、エリザベス一世統治下のロンドンでは芝居が大人気。
しかし、女王の側近であるウィリアム・セシル卿は、
民衆が芝居によって扇動されることを恐れ、息子のロバートとともに弾圧を図る。

オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアは、幼い頃に父親を亡くす。
ウィリアム・セシル卿が彼の後見人となり、
あらゆる言語や剣術など、旧家にふさわしい教育をたたき込むが、
エドワードが好む創作、つまり物を書くことだけは禁じた。
執筆意欲を消し去ることができないエドワードは、ひそかに物を書きつづける。

あるときウィリアムの指示でエドワードが書き綴ったものを盗もうとした男が、
エドワードに刺し殺されてしまう。
ウィリアムはそのことを秘す代わりに、自分の娘との結婚をエドワードに強いる。

こうして義理の父子という関係になったウィリアムとエドワードだったが、
そもそもお互いをよく思っていないのだから、対立は深まる一方。
そんななか、エドワードがある劇場で芝居を観戦中、警察が乱入。
民衆を扇動したとして劇作家のベン・ジョンソンが囚われの身に。
そこでエドワードは牢獄からベンを出してやるように手配し、
自由が欲しくばこれまでに自分が書いた戯曲をベンの名で上演せよと命じる。

誰にも言わないという約束をエドワードと交わしはしたが、
ベンはお調子者の役者ウィルに事情を打ち明けてしまう。
後日、エドワード作の戯曲『ヘンリー5世』を上演したところ、観客は大興奮。
劇作家は誰かと問われてベンが躊躇っていると、ウィルが自分だと手を挙げる。
エドワードは怒りつつも、ウィルにウィリアム・シェイクスピアと名乗らせる。
やがて、貴族、特にセシル家を揶揄したとおぼしき戯曲は民衆の心を掴み……。

シェイクスピアをはじめとして、実在の人物が出てくるわ出てくるわ。
その来歴のところどころに抜け落ちたところがあるのをいいことに、好き放題に解釈。
とても奇抜でワクワクします。15年温めた甲斐があるというものでしょう。

俳優陣の顔が似過ぎて紛らわしいと感じたことにも、納得の理由あり。
臨終が間際に迫ったエドワードが枕元にベンを呼び、言葉を交わすシーンに泣きました。
「君は私を裏切ったとしても、私の言葉は裏切らないだろう」。

謎だらけで、死後何年経とうがテーマとなるシェイクスピア。凄いっす。

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『LOOPER/ルーパー』

2013年01月19日 | 映画(ら行)
『LOOPER/ルーパー』(原題:Looper)
監督:ライアン・ジョンソン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット,ブルース・ウィリス,エミリー・ブラント,
   ポール・ダノ,ノア・セガン,パイパー・ペラーボ,ジェフ・ダニエルズ他

去年の暮れに家の外観を塗り替え、年明けに衝動的に車を買い替えたので、
毎日の生活で節約できそうなところは節約しようと思ったら、
私のお金の使い方でいちばん節約しなあかんのは映画鑑賞代と本購入代。
前売り券を買って観に行くのは苦手でしたが、できるだけ前売り券を買うことにしました。

ほいで早いうちに買ってあったんです、本作のムビチケ。
この間の祝日、早速ネットで座席予約してTOHOシネマズなんばへ。
後述の作品は貯まったポイントで観ようと窓口へ向かったら、
「本日はTOHOシネマズデーで、1,000円でご覧になれますが、ポイントをお使いになりますか」。
「え、今日1,000円なん!?」と思わずタメ口で聞き返してしまいました。
ムビチケ、買わんほうが安かったがな。(T_T)
差額の400円を取り戻すべく、この日は何か食べるのも飲むのも我慢した私です。

2044年に生きる25歳の凄腕“ルーパー”、ジョー。
30年後の2074年の世界では、タイムマシンが開発されているが、
その使用は法律によってかたく禁じられている。
しかし、闇の組織ではタイムマシンを利用、大々的に殺人をおこなっている。
というのも、人間の体内にマイクロマシンが埋め込まれた2074年には殺人が不可能で、
この世から抹殺したい人物が存在しても手を出せない。
そこで、殺したい標的を見つけるとタイムマシンを用いて30年前に送り込み、
ルーパーと呼ばれる処刑人に殺害させているのだ。

標的は手首を縛られ顔には袋を被された状態で2044年に現れる。
突如現れた標的をルーパーは待ち構えてラッパ銃で射殺。
ルーパーの報酬は標的の背中に貼り付けられた銀の延べ棒。
それをとっとと外すと、標的の死体を処分する。

銀の延べ棒をしこたま貯め込み、将来安泰かと思われたジョーだったが、
ある日、予定時刻を過ぎて目の前に現れた標的は袋を被されていなかった。
素顔を見たジョーは、それが30年後の自分自身であることに気づいて怯む。
その一瞬の隙を突いて、55歳のジョーは逃げてしまう。
標的を取り逃がせば組織から追われ、見つかればただちに消される運命。
25歳のジョーは自分の身を守るために55歳のジョーを必死で探すのだが……。

前述の『渾身 KON-SHIN』で泣くのは予想できたとして、本作にもウルッ。
ジョーが逃げ込んだのはサトウキビ畑に囲まれた一軒家。
そこで幼い息子を一人で育てる、エミリー・ブラント演じるサラの母性。
不気味なほどの賢さとあどけなさを見せる息子シドを守り抜こうとします。
そしてそれを理解した25歳のジョーが取る行動。

タイムマシン自体に目新しさはありませんが、
直球で潔いとも言えるラストに息を呑みました。

ブルース・ウィリスの若いときがジョセフ・ゴードン=レヴィットなんて、
似ても似つかんやんと思っていましたが、どっこい、ビックリ。
メイクによるところは大きいとしても、
目の細め方、唇の結び方、声のかすれ具合、おんなじ~。
ハゲ役者は決して嫌いじゃないですけれど、
お願い、ジョセフ、アナタはあんなにハゲんといて。

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『渾身 KON-SHIN』

2013年01月17日 | 映画(か行)
『渾身 KON-SHIN』
監督:錦織良成
出演:伊藤歩,青柳翔,甲本雅裕,笹野高史,中村嘉葎雄,財前直見,
   宮崎美子,井上華月,中村麻美,高橋長英,真行寺君枝他

新年になってから先週まで、家でおとなしくDVD鑑賞していました。
お正月三が日はレンタル開始のDVDもなかったので、旧作を中心に。
アガサ・クリスティ原作、ビリー・ワイルダー監督の『情婦』(1957)とか、
せめてダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドは見ておこうと思って、
『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)と『007/慰めの報酬』(2008)とか。
そうそう、『007 スカイフォール』のときに50作目と書いてしまいましたが、
50周年記念作品というだけで、23作目でした。すみません。

で、1月も半ばになった先週末、今年初めて劇場で観たのが本作です。

『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010)など、
自らの出身地である島根県を舞台にした作品を手がける錦織良成監督が、
今度はやはり島根県の隠岐諸島に伝わる古典相撲を取り上げて。
ロケ地には『カミハテ商店』と同じく隠岐郡海士町も含まれていますが、
あの寒々とした町が、作品が変わればこんなにも暖かく見えるのですね。

隠岐諸島に暮らす多美子は、夫の英明、幼い娘の琴世と3人暮らし。
ただし、琴世とは血がつながっていない。

旧家に生まれた英明は、かつて親が決めた縁組を挙式当日にドタキャン。
多美子の親友である麻里と駆け落ち同然に島を飛び出した。
数年後、英明は突如として帰郷を決意、麻里もそれに従う。
両親を訪ねると、母親は和らいだ表情を見せるが、父親は絶対に許さないと言う。
英明と麻里は島からふたたび逃げ出したりせず、ここで生きていくことを誓う。
以前のドタキャンを知る住民らのもとでは職に就くのも大変だったが、
多美子や彼女の母親の助けもあり、なんとか暮らしが形になりはじめる。
ところが、琴世を出産した麻里を病魔が襲い、闘病生活ののちに帰らぬ人に。
琴世の母親代わりを務めていた多美子は、やがて「新しいお母ちゃん」になることに。

そんな事情の3人だったが、英明が古典相撲の練習に参加するようになり、
ようやく島のみんなに受け入れられたかのようだ。
ドタキャンの噂の影はいつまでもつきまとって消えないが、
英明の真面目な仕事ぶりや練習に臨むひたむきな態度が人びとの信頼を得る。

そして迎える、20年に一度の水若酢神社の遷宮を祝う古典相撲大会の日。
古典相撲は座元(ざもと)と寄方(よりかた)に分かれて勝負がおこなわれる。
座元とはいわゆるホームチームで、寄方はそれ以外の地域のチーム。
今回、寄方となる英明らのチームでは、正三役大関を誰にするかで審議中。
正三役大関は心技体すべてにおいて優れている者でなければならない。
過去を問題にしつつも、いまの英明こそ正三役大関にふさわしいと、
島の重鎮たちは満場一致で彼を推挙する。

自分が選ばれるとは思いもよらず驚く英明、嬉しくも緊張の面持ちの多美子。
島は大いに盛り上がりを見せ、いよいよ当日がやってくるのだが……。

相撲にさほど興味はありませんでしたけれども、
古典相撲なるものがわかりやすく描かれていて楽しめました。
夜通しおこなわれる伝統行事、ラストは圧巻で涙の渦。

付かず離れずの都会生活のほうがいいなぁと思うものの、
住民同士がこんなに触れあう暮らしも羨ましい気がします。
古い考えがはびこっているのが当たり前であろうこの島で、
過去にとらわれずに若者を見守り育てていこうという心意気が嬉しくてたまりません。

多美子役は『スワロウテイル』(1996)以降、順調にキャリアを伸ばしている伊藤歩。
今風の女性よりもこんな古風な女性が似合っています。
英明役の青柳翔が劇団EXILEのメンバーだとは鑑賞後に知りました。
っちゅうのか、そんな劇団の存在も知りませんでした。ごめんなさい。
いつも兄弟のどちらだかわからなくなる甲本雅裕。弟のほうでしたね。
すっとぼけた味のある役でみんなを笑わせてくれます。
しかし、隠岐の島の人たちって相撲を観ながらこんなにお酒を飲むんですか!?

それにしても相撲って年輩の方に絶大な人気があるのですね。
ここ数年間に観た映画のなかで、ジジババ率は最高。
『あなたへ』(2012)や『北のカナリアたち』(2012)同様、
共感能力の高いみなさんの間で観ると、いちいち面白い。
「夜が明けてしもたがな」とかいう声も聞こえて笑いました。

新年1本目で思いきっり泣いて、いい気分でした。
ごっつぁんです。

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『オチキ』

2013年01月16日 | 映画(あ行)
『オチキ』
監督:吉田浩太
出演:木乃江祐希,関寛之,安保優一,池田薫,及川莉乃他

これも前述の『あの女はやめとけ』と同じく、
ENBUゼミナールの“ENBUシネマプロジェクト”の作品。
ゆえに出演者がかなりかぶっていて、「あ、これ、さっきの人」と思い当たるのも楽しい。
主演は『あの女はやめとけ』のあの女(=夕子)役だった木乃江祐希。

サクラは女性デュオグループのボーカルを担当している。
かわいいサクラが固定ファンを掴んでいるのに対し、
キーボードを担当する相方ののぶ子は全然。
本当はどの曲ものぶ子が作っているのだが、
仕方なくサクラとの合作ということにしている。

路上ライブを重ね、そこそこ人気が出て、さぁこれからというとき、
ちょっとした気のゆるみからサクラは妊娠してしまう。
しかも複数の男性とそういう関係にあったサクラは、誰が父親なのかわからない。
考えられる相手に「あなたの子よ」と信じさせようとするが無理。

一方、芸能スカウトマンの成瀬は、所属事務所のタレントであるはな子を妊娠させてしまう。
はな子はデビューも決まっている事務所の期待の星で、しかも未成年。
なんとかなだめて事態を収拾しようとするが、
はな子の母親と弁護士が出てきてエライことに。

タイトルはもちろん『モテキ』(2011)の逆の意味で、
しかもオチキにある人間はそれには気づかずにどんどん落ちるんだそうな。
オチキから脱出するにはとことん落ちるしかないという悲惨さ。

あがいてもあがいてもオチキから抜けられないふたりですが、
自業自得の部分が大きいので、仕方ありません。
結構おもしろかったけれども、サクラの歌は酷すぎて耳を覆いたくなるほど。
これで人気上昇中と言われてもツライです。

あっと驚くどんでん返しには無理矢理な印象はあるものの納得。
だけどその後のオチは私は笑えない。
便秘薬とおぼしきものが映ったときに嫌な予感はしましたけれど、マジでこう来るとは。
だからさぁ、下ネタはいいけど、映画のう○こネタは苦手なんだってば~。(--;

そんなわけで、2本のENBUゼミナール作品は、
私としては『あの女はやめとけ』に軍配。
このプロジェクトの作品はまた観てみたいです。

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『あの女はやめとけ』

2013年01月14日 | 映画(あ行)
『あの女はやめとけ』
監督:市井昌秀
出演:牧野琢也,広木健太,内堀太郎,木乃江祐希,太田正一他

前述の『カミハテ商店』を観て友だちとはお別れ。
酔いもほぼさめて、ナナゲイであと2本観ることに。

ちょうどこの日は“DROP CINEMA SPECIAL”というイベント開催中。
東京都中野区にENBU(エンブ)ゼミナールなるものがあり、
これは俳優や映画監督を目指す人のための養成スクールなのだそうです。
山下敦弘吉田恵輔熊澤尚人瀬々敬久といった映画監督が講師を務め、
卒業生は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)や『乱暴と待機』(2010)の原作者、本谷有希子など。
彼女は役者になるべく入学したら、講師だった松尾スズキの下、劇作家として開花したそうな。

そんなENBUゼミナールの“ENBUシネマプロジェクト”が製作したのが本作。
『無防備』(2007)の市井昌秀監督がメガホンを取り、研究生らが出演しています。

某会社のクレーム対応係で32歳の土居は、
消費期限切れの商品を売りつけられたと怒り狂う兄ちゃんを前にひたすら頭を下げる。
その謝りっぷりに後輩は感心するが、土居にとっては謝るなんて簡単なこと。
こちらに非があると思っていない場合でも、誠心誠意わびるふりはできる。

土居は愛してやまない同棲中の婚約者、夕子ともうじき結婚予定。
ゆえに土下座でも何でもへっちゃらなんだと思っていたら、
なんと夕子は数週間前から行方不明。しかも結婚資金をすべて携えて。
その事実を知らされた小学校時代からの友人、田村と手島は、
土居を元気づけようと温泉旅行に誘うのだが……。

聞いただけで観たくなるような巧いタイトルだと思いましたが、
想像していた「あの女はやめとけって言ったのにぃ」というのとはちょっとちがいます。

飲み過ぎた席でノリで決まった温泉旅行。
当日の朝に爆睡中の土居を起こしにやってきた田村と手島は、
劇場で「え、マジでそんなことしちゃうの?」と笑いが出るほどの暴挙に出ます。
温泉でコンパニオンを呼べばあり得ない下ネタに走るし、
この辺りはやり過ぎの感ありで引きましたが、まぁいいか。

謝罪なんて、こっちがどう思っているかどうかではなく、
こっちが本気で謝っていると相手に感じさせることが大事だと言っていた土居。
土下座しつつも、左右のポケットに3千円と5千円、胸ポケットには1万円をしのばせて、
どの金額でうなずく客なのかをきっちり値踏みしています。
そんな彼がある人に、見せかけの謝罪ではなく心から謝る姿は胸に響くもので、
『神様からひと言』(2006)を思い出しました。
綺麗にいい話に落ち着いたと見せかけておいて、シュールなラスト。笑えます。

終映後はENBUゼミナールの代表と田村役の俳優さんの舞台挨拶。
なかなかにおもしろかったです。

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