雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

お叱りも受けました

2017-03-21 08:17:46 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語

                お叱りも受けました

中宮さまの素晴らしさにつきましては、何度も申し上げて参りましたが、和歌ばかりでなく漢詩などにも造詣が深く、しかも、豊かな知識を自由自在に用いることが出来る御方でございます。
私も、中宮さまのお考えに少しで近づきたく懸命にお仕え申し上げ、自分で申し上げるのもなんですが、お褒めの言葉をいただくこともございました。
しかし、このお話は、言葉が行き届かず、お叱りを受けたお話でございます。

私が、物忌で宮中を離れある人の家に身を寄せていましたが、二日目の昼頃、とても退屈でやりきれなく、早く宮中に戻りたいなどと思っていましたちょうどその折に、中宮さまからの御手紙を賜りましたので、とても嬉しく拝見致しました。
浅緑の紙に、代筆された宰相の君のとてもきれいな筆跡で書かれておりました。
「『いかにして過ぎにし方を過ぐしけむ 暮らしわづらふ昨日今日かな』というお気持ちですよ。
(宰相の君の)私信としては、今日だけでも千年も経った気持ちなのですから、夜明け前早くにね」
とありました。

宰相の君が仰ってくれていることでも大変なことなのに、中宮さまの御歌の趣はおろそかなどには出来ないと思いまして、
「『雲の上も暮らしかねける春の日を ところからともながめつるかな』とお返し申し上げ、
私信といたしまして、今夜の一夜が、何とかの少将のように待ちきれないのではないでしょうか」
と、ご返事申し上げました。

そして、夜も明けきれぬうちに参上いたしますと、中宮さまは、
「昨日の返歌は、『かねける』が、ほんに憎らしい。みんなで散々悪く言っていたのよ」
と、仰せになられました。実に情けない気持ちでした。
たしかに、「かねける」の「ける」が推量伝聞の働きをしているものですから、中宮さまの本当の気持ちが伝わっていないということになってしまいます。
中宮さまが仰せになられるのはもっともなことで、実に恥ずかしく情けない気持ちでしたわ・・・。


(第二百八十二段・三月ばかり、より)
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