雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

またも豪雨が

2019-10-25 18:59:15 | 日々これ好日

        『 またも豪雨が 』

     
またも豪雨が 関東地方を中心に襲う

     千葉駅が浸水するなど 交通機関をはじめ被害が出ている
     北日本は まだ雨が続いている
     これまでの被災が回復していない地域も多く
     その難儀が察せられる
     ただ ただ お見舞い申し上げます

                  ☆☆☆ 
  

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苦しき胸の内

2019-10-25 08:16:17 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語 
               苦しき胸の内

さて、賀茂の奥にほととぎすを聞きにいった後のことでございます。
雷の騒ぎなどに紛れて、結局歌を詠まないままになってしまい、牛車に乗って行った人たちと、ほととぎすを聞きに行ったことは話題にしないようにしましょう、などと話し合ったりしていました。
しかし、中宮さまは、私たちの魂胆を見抜いていらっしゃり、ご不満そうなご様子が続いておりました。

二日ばかり経って、中宮さまのお近くで、つい先日のことが話題になってしまい、宰相の君が、
「明順が『自分で摘んできた』と言っていた下蕨の味はどうでしたか」と私に話しかけるのを、中宮さまがお耳にされて、
「まあ、思い出すことといったら、食べ物のこととは」
と、お笑いになられました。そして、紙片を取り寄せられて、
『下蕨こそ 恋しけれ』
と、お書きになって、
「さあ、上の句を付けよ」
と、私にお命じになりましたが、さすがに、女房のちょっとした会話を取り入れられるなど、機知にあふれた御方であられます。
『ほととぎす たづねてききし 声よりも』
と、私も急いで書いてお渡ししたのですが、
「何と、まあ、厚かましいこと。ぬけぬけと食べ物の方が恋しいだなんて。それでも、ほととぎすと入れたのは、少しは気になっているらしいのね」
と、お笑いになるものですから、とても恥ずかしく惨めな気持ちがいたしました。

「私は、かねてから『歌を詠みますまい』と思っているのですが、晴れやかな場所などで、皆様方が歌を詠みます時に、私にも『歌を詠め』と申し付けられるのが、とても辛いのでございます。
私とても、文字の数が分からないとか、とんでもない季節の歌を詠むようなことはありませんが、『歌の上手』といわれた者の子孫ですので、少しは人並み以上の歌を詠まないことには、祖先を汚すことになってしまいます。取るに足らないような歌を、他の人に先駆けて詠み上げたりしますのは、亡き父に取りましても可哀そうなことでございます」
と、真剣に申し上げますと、中宮さまは笑いながらも、
「それならば、そなたの好きにするがよい。私からは『詠め』とは申すまい」
と、お許しを頂きました。

それから間もなく、中宮さまが庚申をなさいますということで、内大臣殿(中宮の兄)はたいそう気合が入っておられました。
庚申の夜は寝ることが出来ません。夜が更けてきますと、内大臣殿が歌の題を出し、女房たちが次々に歌を詠んでいます。
皆様、緊張し苦吟されておりますが、私は、中宮さまの近くに伺候していて、歌とは関係のないお話などしておりました。
「どうして歌も詠まず、そなたは、そんなに離れて座っているのか。さあ、題を取りなさい」
と、内大臣殿が歌の題を下さいましたが、
「中宮さまから格別のお言葉を頂戴いたしまして、私は歌を詠まないことになっております。ですから、歌のことは全く考えておりません」
とお答えいたしました。
「これはまた、奇怪な話だ。そのようなことはありますまい。なぜ、そのようなことをお許しになられましたか。とんでもないことです。
まあいい。他の時はどうでもよいが、今宵は詠みなさい」
と、強くお命じになられましたが、私は知らぬ顔を通しておりました。

やがて、他の人たちは、それぞれの歌の良し悪しなどの評定をなさったりしている時に、中宮さまが、ちょっとした御手紙を私にお渡し下さいました。中には、
『元輔が のちといはるる 君しもや 今夜(コヨヒ)の歌に はづれてはをる』
と、お書きになっているのです。(元輔は少納言の父)
あまりの可笑しさに、私がひどく笑ったものですから、
「何ごとか、何と書いておられるのか」
と、内大臣様がおっしゃるものですから、
「『その人の のちといはれぬ 身なりせば 今夜(コヨヒ)の歌を まづぞ詠ままし』
はばかることさえございませんでしたら、千首の歌でも、即座に出てまいることでしょう」
と申し上げました。

私が、あまり歌を詠まないのには、このような事情もあるのです。


(第九十四段 五月の御精進のほど・・、より)

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