雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

内裏の暮らし

2020-03-29 08:10:03 | 麗しの枕草子物語

     麗しの枕草子物語 
          内裏の暮らし


私が経験した宮中での生活の中では、登花殿の西廂の細殿での暮らしが、とても印象深く、情緒がありました。
少し狭いので、里から人が訪ねてきた時など不便なこともありますが、通りに面しているものですから、いつも人目を気にしますので、その緊張が張りのある生活を演出してくれるのでしょうね。

特に夜は、いつ訪れる人があるかと、まあ、華やいだ気持ちで過ごすことが多くなります。
警備の衛府官などの足音が、夜中じゅう絶えることがありませんが、その足音が一つ離れて細殿に近付いてきますと、少しでも心当たりのある女房は胸をとどろかせ、じっと耳を澄まします。
「とん、とん、とん」
その忍びやかな音は、どれも同じようではありますが、細殿に住む女房たちは、しっかりと聞き分けることが出来るのです。
忍びやかな音が、残念ながら、となりの局を訪ねるものであれば、そっと滑り寄って、その会話を聞くこともあったりしましてねぇ。

宮中の生活では、貴公子や上達部などの艶やかなお姿や、秀でた詩歌などに接することも多く、さらに、畏れ多くも、帝や中宮様にさえ親しく接する誉れもありますが、このように、宮仕えする女房たちのささやかな喜びも、それはそれで、まことに麗しいものでございます。


(第七十二段 内裏の局・・、より)


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