麗しの枕草子物語
いつの世も宮仕えは
正月も十日を過ぎて、除目(ヂモク・春は地方官の、秋は宮中の官吏の定例の異動があった)の頃となりますと、任官を待つ家々では、悲喜こもごもの姿が見受けられます。
今年こそは受領の任が与えられるという期待が大きい家などでは、数日前から、それはそれは大騒ぎでございます。
かつてこの家に仕えたことのある人々は、主人が閑職にあったためやむを得ず他家へ移っている者や、田舎に戻っている者たちなど大勢が集まって参ります。
任官祈願の牛車が出掛けるとなれば、我も我もと随行する者が実にたくさん集まってきます。
いよいよ受領が決定される日ともなりますと、集まってくる人の数はさらに増えて、出されるご馳走を食い散らかし、酒を飲みまくり、まるでお祭のような騒ぎです。
やがて夜も更けて、騒ぎ疲れた頃になっても、任官を伝える使者が訪れる気配がありません。さすがに、飲み食いに励んでいた人たちも様子のただならぬのを感じてか、「どうも、おかしいな」などと、ささやき合い始めます。
外の様子などを耳を澄ませて窺っていますと、先払いの声などが聞こえてきて、上達部(カンダチメ・上級貴族)たちが次々と内裏から退出なさっています。
情報を掴むために内裏近くに行かせていた下男の姿を見つけても、事の結果を訊ねることもできません。
そのようなことになっていることも知らずに訪ねてきた人が、
「殿は、どちらの国守になられましたか」などと訊ねますと、
「前の某国守ですよ」と、答えているのです。
それが、このよう時の慣わしだそうですよ。
やがて、詰めかけていた大勢の人たちは、沈みきった雰囲気に堪えかねて、要領の良い人から順番に、一人去り、二人去り、家の中はさらに静かになっていきます。
しかし、永年の恩顧のある人や郎党たちは逃げ出すこともできず、「来年国守の交替があるのは、あそこと、あそこと・・・」などと、指を折っているのです。
「すまじきものは宮仕え」とか申すそうですが、なんとも、はい・・・。
(第二十二段 すさまじきもの・・、より)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます