雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

村上の先帝の御時に

2014-08-20 11:00:15 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百七十四段  村上の先帝の御時に

村上の先帝(センダイ)の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、楊器に盛らせたまひて、梅の花を挿して、
「月のいと明かきに。これに、歌詠め。いかがいふべき」
と、兵衛の蔵人に賜はせたりければ、
「雪・月・花の時」
と、奏したりけるをこそ、いみじう賞(メ)でさせたまひけれ。
「歌など詠むは、世の常なり。かく、をりに合ひたる言なむ、いひ難き」
とぞ、仰せられける。

おなじ人を御供にて、殿上に人さぶらはざりけるほど、たたずませたまひけるに、火櫃に煙の立ちければ、
「かれは何ぞと見よ」
と仰せられければ、見て、帰りまゐりて、
「わたつ海のおきにこがるるもの見れば あまの釣してかへるなりけり」
と、奏しけるこそ、をかしけれ。
蛙のとび入りて、焼くるなりけり。


村上帝の御時のことですが、雪がたいそう降ったのを、容器に盛らせさせて、それに梅の花を挿して、
「月がとても明るいではないか。これを題に、歌を詠め。どのように詠めるかな」
と、兵衛という女蔵人にお下しになられましたので、
「雪、月、花の時」
と、兵衛が奏上されましたのを、大変お褒めになられたそうです。
「歌などに詠むのは、ありきたりのことだ。こんなに、折に叶った文句などは、なかなか言えぬものだ」
と、仰られたそうでございます。

同じ兵衛の蔵人をお供になさって、殿上の間に誰も伺候されていなかった時に、ちょっと立ち寄りましたところ、火鉢に煙が立ちのぼったので、
「あれは何の煙なのか、見て参れ」
と仰せになられましたので、見届けてから、戻ってきて、
「わたつ海の おき(沖・燠火)にこ(漕・焦)がるる もの見れば あまの釣して かえる(帰る・蛙)なりけり」
と奏上されたというのは、しゃれたものです。
蛙が火鉢に飛び込んで、焼けていたんですって。



小話二題、といったところでしょうか。
「枕草子」は、全体を通してみれば、明るい作品といえると思うのですが、定子の中関白家の衰退という時代背景を考えますと、決して楽しいことばかりではないと思われますが、全体を通して受ける清涼感は、少納言さまのお人柄なのでしょうか、それとも、懸命に作り上げた作風なのでしょうか。

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