雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

みあれの宣旨

2014-08-19 11:00:23 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第百七十五段  みあれの宣旨

みあれの宣旨の、主上に、五寸ばかりなる殿上童のいとをかしげなるを作りて、みづら結ひ、装束などうるはしくして、中に名書きて、奉らせたまひけるを、「兼明の王(トモアキラのオホキミ)」と書きたりけるを、いみじうこそ、興ぜさせたまひけれ。

みあれの宣旨(賀茂祭りの宣旨を斎院に伝える女官)が、天皇に、五寸ばかりの殿上童の大層可愛らしい人形を作って、髪はみずらに結い、装束も立派に整えて、中に名前を書いて献上なさったのですが、「ともあきらのおおきみ」と書いてあったのを、天皇は大変お喜びになったそうでございます。


文章の内容は、「女官が天皇に可愛らしい殿上童の人形を奉ったが、それには『兼明の王』と書かれていたので、天皇は大変喜んだ」というだけのものですが、これでは、「それがどうしたの?」と言いたいような内容になってしまいます。

参考書などを頼りにもう少し詮索してみますと、天皇というのは花山天皇のようで、この方は、十七歳で即位し、二年足らずで譲位しています。
問題は「兼明の王」なのですが、師貞親王(花山天皇)の春宮傅兼明親王を指しているらしいのです。この方は、村上天皇の異母弟で、一度臣籍に降ったが、六十四歳になってから親王宣下を受け皇族に復帰しているのです。ふつう、親王宣下を受けるのは幼少期ですから、六十四歳の翁が親王宣下を受ける可笑しさを、人形の名前で暗示しており、天皇はその意味をすぐ察知されたというのです。

何気ない文章の奥にある少納言さまの意図を探るのはなかなか大変ですが、当時の人にとっては、すぐに伝わる風刺なのかもしれません。

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