マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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弥生の里~くらしといのり~春季特別展

2011年05月23日 08時53分22秒 | メモしとこっ!
待ちかねていた春季特別展が始まった。展示されているのは奈良県立橿原考古学研究所附属博物館だ。何年振りに訪れたのだろうか。馴染みのある会場に懐かしさを感じる。その初日、入館はさほどでないのが助かる。失礼な言い方だが落ち着いて拝観できるのがいい。古代の発掘が新聞報道されるとワクワクする。何度か機会があればでかけていた。発掘調査を終えれば再び地面の中に戻される。一生に一度しか見ることができない。行事の取材が増えるにつれて行けなくなってきた。この4月からはフリーな毎日。ありがたい日々を送っている。発掘は現地説明会で見聞きするのがいちばん。際立った発掘がされれば報道も力が入る。そんな現説には大勢の古代史ファンが訪れる。

今回の企画展示は「弥生の里~くらしといのり~」。弥生時代の発掘成果に古代のくらしや祈りを伝える企画展。古代には祀りがあった。それは農耕の祈りでもある。弥生時代から稲作が発展してきた日本列島。奈良でもその証が土の下から発見される。時代名称となっている弥生。いつからそれが呼ばれるようになってきたのだろう。解説によれば明治17年に東京の弥生町から発掘された土器が発端だとある。縄文土器とは異なる文様が発見された。藁縄の文様が消えていた。それが特徴だと出土地の名をとって弥生土器と名付けられた。そうだったのか。普段なにげなく使っている時代名称はここにあったのか。このころに稲作が始まったとされているが土器の変遷とは一致しないそうだ。明確な基準点が見つからないようだ。静岡の登呂遺跡にはスキやクワなどの農具が発見されている。もちろん土器は弥生式だ。1970年代、日本各地で発掘された水田遺跡は小区画水田だという。そこにはウリ、トウガン、ヒョウタンなどの食べ物も発見されている。もちろんそのタネであろう。
奈良県で発掘された、かの有名な唐古・鍵遺跡は弥生時代の大規模集落。他にも大和高田の川西根成垣(ねなりがき)、橿原の一町(かずちょう)や萩之本、御所の今出や中西遺跡。いずれも洪水によって砂に埋もれていた状態で水田が検出された。暴れ川であったのだろうか。自然災害の洪水の恩恵で古代からのメッセージをこうして現代に伝えられたのだ。発掘されたのは大和御所道路の工事である。現在も工事は進められており、その都度新たな発見がされている。解説にある根成垣は環豪集落だったそうだ。溝に架けられた橋跡も発見されている。それがあるということは飛んでも渡れない、川幅が広かったということだ。唐古・鍵遺跡は大規模の環豪集落だった。県内の盆地部の旧村ではいたるところが環豪集落である。それは150~200カ所もあるという。それらは室町期に発達したとされる。環豪は村を守る濠である。戦いの際の防御の役目だ。旧村の環豪は溢れる水を逃がすためでもある。弥生から室町へとどのような変遷があったのだろう。人口増加、農作の発展、独立する小村落・・・。いずれにしても弥生時代から環豪集落があったことは事実だ。中西遺跡では付近に森林があった。ヤマグリ、オニグルミ、アカガシ、エノキ、ムクノキ、クリ、トチノキ、マメノキ、クスノキ類など多様な樹木。森の樹木は若いもので5年、古木は100年だった。それは農具の材料にもなっていた。実は食糧だ。森はムラを守る生活維持の場であった。
銅鐸に描かれている動物や昆虫。それには一年間の暮らしのなかの古代の季節が刻印されている。ツノの無いシカを射る弓矢をもつ人物絵。魚をくわえたサギやスッポン、ヤモリ、カエル、ヘビなどの動物にクモ、カマキリ、トンボなどの昆虫も・・・。いずれも季節ごとの水田に生息する生物だ。ここには自然とともに暮らす弥生人がいた。カマキリやクモは稲に害をあたえる虫たち。カニやシカは農作物を荒らす。そのシカを捕える姿。描かれた絵には稲作の予祝儀礼を現わしているのかもしれない。平安時代の虫追いの様相が書き記されたとされる「古語捨遺」。イナゴ害を払う手段として「牛のシシ肉」を溝口に置いて男茎(オハゼ)の形を造ってツスダマ、ハジカミ、クルミノハ、シオ(塩)を畔に置くとあるそうだ。当時の様相ではなく、かつてのことで記億の領域であったかもしれない。そのあり方は現代に伝わらず、松明を持って田畑を荒らす虫を追い払う仏式行事となったのだろうか。
唐古遺跡ではさまざまな動植物が発掘された。カモ、キジ、ツグミ、イノシシ、シカ、ハタネズミ、ムササビ、アオダイショウ、トカゲ、スッポン、ドジョウ、シジミ、コクワガタ、オオスズメバチ・・・。古代人はそれらを食べていたのだ。現代でも食べられているものが土中に埋もれていた。美味いものは時代を超えても同じ味覚なのであろう、私が食したのはイノシシ、シカ、スッポン、ドジョウ、シジミ、オオスズメバチなど・・・。剥製や骨格標本などで実物を紹介している。里山とともに暮らしてきた弥生人の自然文化誌が再現されている。
今回の特別企画展では農耕儀礼を紹介する行事写真で協力している。写真のことはともかく、県立民俗博物館からはその行事に使われた道具を出展協力されている。田原本町今里の蛇巻きの牛と馬や農具のミニチュア。ハシゴ、カラスキ、クワ、スキ、ツチ、オノなどは丁寧なつくりで道具とは思えないぐらい精巧な出来栄えだ。橿原地黄町の野神祭からは大きな絵馬がある。「例年の通り大豊作 五月五日」と記された絵馬には農夫が牛を引いて田んぼを耕作する姿の風景だ。水口祭りに奉られる松苗、ゴーサンの祈祷札もある。虫送りに使われたでっかい松明。イノコのデンボまである。
機械化で消えて行った牛耕。農耕のあり方は変わっていったが、昔も今もそれほど変わらない一年間の稲作。会場ではその一部始終を写真や解説で紹介している。発掘された過去の遺物から弥生時代の暮らしぶりやいのりを物語る。現代の様相は農耕儀礼を祭る行事として展開された。そうした接点を考えさせる春季特別展に感動するが、来館される拝観者の視線は煌びやかな発掘装飾品に目が奪われていく。自然とともに暮らす農耕に興味をもつ人は少ないが、次世代を担う子供たちの学校教育には最適な教材になるだろう。これら展示物を開設した図録はそれに活用できるものと思っている。

春季特別展「弥生の里-くらしといのり―」
開催期間 平成23年4月16日(土)~6月12日(日)
開催場所 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館 <奈良県橿原市畝傍町50-2> 9時~16時半
休館日 月曜日
入館料 大人800円、高・大学生450円、小・中学生300円
図録 700円(館内販売)
<館内は撮影禁止>

(H23. 4.16 SB932SH撮影・スキャン)