マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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佐味・早朝のカンピョウ干し

2018年08月19日 10時09分48秒 | 民俗あれこれ(干す編)
ユウガオの実の皮を剥いて白い中身を薄く、薄く剥く。

剥く道具はカミソリそのもの。

散髪屋さんで髭を剃ってもらうカミソリ道具そのものであった。

これを竹とか木片を加工して手に馴染むような形に調整して作る。

これまで拝見した皮剥き道具はどの人も工夫して作っていた。

手の大きさも違うし、剥く感触も違うのでいろいろ作ったという人もいた。

今どきはアマゾンで売っているらしいが、平成22年7月17日に取材した田原本町の多に住んでいた高齢の婦人はこの道具を「カンナ」と呼んでいた。

「カンナ」は木を削る道具。

カンピョウの皮剥きは削るような感じでもないが、自作する道具作りもまた民俗。

まったく同じというものはなかった。

ただ、実際に皮剥きを見たことはない。今回がはじめてである。

皮を剥いて干す日は天気予報が頼り。

数日続く晴天になりそうな日を前日までに決めておく。

まずはユウガオの実の収穫。

畑に出かけて採ってくる。

その時間はどことも4時ころと聞いている。

収穫したユウガオの実は持ち帰って皮を剥く。

その時間はだいたいが朝の6時。

自宅から1時間以上もかかる地区であれば遠慮していた。

まぁ遠慮というよりも起床してから身体の準備を整えるまで2時間も要するから断念していたわけだが・・。

前日、3年ぶりに出会ったUさんは田原本町佐味に住む。

大和郡山の我が家から30分もかからない。

取材させてくださいとお願いしたら、皮剥きは朝6時にしましょうと云ってくれた。

ありがたいことである。

この日に収穫したユウガオは2玉。

品種は長玉や丸玉があるらしいが、奈良県内では長玉が多いような気がする。

気がするだけで、どこかに丸玉を育てている家はあるかもしれない。

カンピョウは多いときでも玉三つか、多くても四つ。

皮剥きから干すまでの作業時間は一玉で30分くらい。

数が多ければ多いほど作業時間はかかるし、体力も要る。

これくらいが丁度いいという。

皮を剥く前の作業は見ての通りの円盤切り。

大きな刃の包丁で、ずこっと切断する。

切る幅はカミソリの刃に合わせた3cm~4cm辺り。

ざっと、という感覚の幅に包丁を入れて輪切りする。

だいたいが目安の幅である。

厚さは計測していないが、1cm~2cmくらいはあるような感じだ。

薄っぺらであれば途中で切れる。

分厚くすれば乾きが悪くなる。

微妙な厚さであるが、皮剥きしている状態を観察している限り困った様子でもない。



実は道具のカミソリの刃の角度や隙間。

手でもつ部分の間隔で決まる。

カンピョウの皮に当てて右手で剥いたら、左手でもって円盤を動かす。

左手で支えながら剥いては廻す。

リズミカルな動きで剥いては廻す。

そういう感じに見えたが、やってみなけりゃわからない。



ただ、種がある中心部になれば、くにゃくにゃ状態。

柔らかい部分になれば力の当て具合が難しくなる。

種がある部分近くまで剥いたらひと巻き分が終わる。

種も、柔らかいワタの部分も不要。

廃棄するのであるが、これはジャンボタニシのオトリのエサにするという。

水田や水路辺りに住み着いたジャンボタニシをおびき寄せて捕殺退治する。

柔らかいのが好みらしく、スイカも同じような効果があるらしい。

それはともかく、剥き始めから剥き終わりまで、途中で切れることなく綺麗に剥けても、そのまま干すわけにはいかない。

干す場面になればわかるが、Uさんのカンピョウ干し竿の高さは手が届くところまでだ。

高さは2メートルぐらいなるが、地面につくところまでは伸ばさない。

だいたいが膝頭辺りまでである。



というようなことで長く剥いた皮は適当なところを、指で千切るように切り離す。

作業は見ての通り。

手を伸ばしながら適当な長さを手尺で測って切る。

ある人がお家でしているカンピョウ作りをブログ公開していた。

道具や干し方などに違いがある。

地域はどこであるのか、わからないが参考にしたい民俗である。



この映像はユウガオの両端を切断した断面である。

端っこはヘタ。

この方がわかりやすいからと、適度な厚さに切った断面を見る。

厚い表面皮。

内なる面に緑色の粒が見えるだろうか。

均等についている粒の正体。

植物学的にどういう構造になっているのかわからない。

その部分もそうだが、もう一段内部にある粒も目立つからと云って捨てる。

一つ目のカンピョウの皮剥きを終えたら藁でくるんだ竿に架けて垂らす。

デキが不ぞろいだったので長さも不ぞろい。

竿半分に垂らした右は空間。



ちょうどそこに収まるように位置したUさんは二つ目のカンピョウ作りに入る。

一つ目と同じように円盤形スライスの包丁切り。

ザックザクと切っていた。

一つ目に剥いたカンピョウはまるで簾のように垂れていた。

こうしてみると太目のベルト幅であるが、天日に干せば水分が飛ぶ。

一日ではそこまでならないが、二日目、或は三日目に亘る二度干しをすれば、幅広いカンピョウもチリチリの縮れ麺のようになる。

純白だった幅広のカンピョウも焼けた色になる。

白い簾も風がそよいでくれれば、と思うが、そうはいかない自然現象。

皮剥き作業は一つ目と同じように坦々としていた。

外側から見ていたカンピョウの皮剥き作業も小屋内部から見ればどういう具合になるのか。

外はお日さんが昇って日差しが次第にキツくなってきた照り。



暑さを避けるためもあって、Uさんが作業する小屋内に移動しただけであるが、広がる田園景色に目が開いた。

小屋の向こう側の左は野菜作りの畑。

中央は聞いていないが、ある野菜作付の畝。

その右は田植えの場である。

三者三葉の畑の奥に見える段丘は曽我川の堤になる。



二つ目の皮剥きを終えたカンピョウも竿干し。

情景を見ているだけで癒される。

小屋内部ではどこまで干しているのかわかり難い。

外側に回って干す作業を拝見する。

こうしてみれば二つ目のカンピョウ干しの長さが揃っている。

長く剥いた皮は適当なところを指で千切るように切り離しているように見えていたが、実はそうではなかった。

手尺で測った長さはきっちりしていたのだ。



おもむろに動いたUさん。

竿を吊るしていた紐を解いて前に擦りだした。



作業小屋に置いていた支柱を取り出して土中に挿す。

その位置に埋めた穴あきパイプがある。

そこに鉄製の支柱を挿して固定した。

その支柱もUさんの手造り。



昔取った杵柄に工作はお手の物。

ビスネジは溶接して固めた。

そこに差し込むU字支えはねじ込み型。

カンピョウ干しの時期が終われば取り外す。



作業小屋の天井に収納しているカンピョウ干しの木製支柱がある。

支柱の長さは測っていないが、大方5~6mぐらいになるだろうか。

支柱は2本。

2本とも、てっぺんに針金で縛った滑車がある。

母親がしていた道具はこれであった。



二本の支柱の滑車ごとに上げ下ろしをする紐を通していた。

その紐はカンピョウを干す竿の左右のそれぞれ両端に括っている。

手が届くところまで下ろしてカンピョウを垂らす。

すべてを垂らしたら二人がかかりで竿を上げる。

一人でする場合は、片方ずつ。

上げては紐を支柱に結わえて解けないようにする。

反対側の竿も滑車に通した紐を引っ張って上げる。

またもや紐を支柱に結わえて竿が落ちないように固定する。

こうした作業を繰り返して、高く、高く竿を上げてカンピョウを干す。

昨年の平成28年7月31日に訪れた田原本町の矢部。

高齢の夫婦二人がそうしていたことを知る。

ここ佐味のUさんが話していた母親の作業ぶり。

矢部の高齢夫妻を思い出した。

朝6時からはじめたカンピョウ干し作業は午前7時20分に終えた。

私に喋りかけながらの作業であったから、いつもよりは若干の時間オーバーで終わった。

昇ってきた朝日の光を浴びて眩しい。



干したカンピョウも真っ白に染めてくれる。

どの方向から見ても美しいものは美しい。

撮っている間に時間の影が短くなる。

作業を終えて家に戻れば入浴。

ヒンネ(昼寝)は時のごとく午後にひと眠りする。

それまではさっぱりした身体で他のこともしたいと云って帰っていった。

こうした作業を見せてくださったUさん。

それから20日後、同町本村の旧村にあたる新地で地蔵盆の取材をしているところに顔を出した。

佐味からは直線距離にして4km。

なんでここに、とお互いが顔を見合わせた。

写真、えーのん撮らしてもらったので、今度、持っていきますよ、といって別れたが、我が家の事情でほぼ一年後になってしまった。

(H29. 7. 3 EOS40D撮影)