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映画 ‘05年アカデミー作品賞「クラッシュ(’04)」

2006-08-30 10:31:14 | 映画
 クラッシュ、衝突のすさまじい音。映画は、交通事故で始まり、交通事故で終わる。多分に諷刺を込められたもので、オープニングからこんなセリフが飛び出してくる。

 「触れ合いだよ。街中を歩けばよく人と体がぶつかったりするだろ?でも、LAじゃ触れ合いは皆無、人はたいてい金属(車)やガラス(家)の後ろに隠れてしまう。でも、触れ合いたいのさ。ぶつかり合って何かを実感したいんだ」とグラハム刑事(ドン・チードル)は追突された車の中で呟く。
               
 同僚の女刑事リア(ジェニファー・エスポジート)が追突した相手の中国人の女とのやりとりが、この映画のすべてを象徴しているように思う。
中国女「私が悪いの?この女のせいよ。このメキシコ女がいきなり急ブレーキを……」
メキシコ女と言われたリア刑事「私が急ブレーキをかけた?ブレーキランプが見えたでしょ。前が渋滞していたから止まったの。あなたの前方不注意よ。不法滞在者のクセに、アジア人に追突されたと調書に書いて」
警官「奥さん」
リア「奥さんじゃないわ。私は刑事よ」
中国女「刑事がなにさ!あんたのせいよ!」触れ合いと人種差別が見事に融合した。
               
 こういう世界では、なぜだか分からないが、いつも腹を立てている人が多いのか、車の割り込みでの銃撃も車の強奪も日常茶飯事になっている。いろんな人種に囲まれて生活するというのは、日本人には理解の範囲を超えていると言えるだろう。

 刑事や巡査に商店主、TVディレクター、鍵の修理屋、こそ泥というどこにでもいる人間が織り成す、人生のタペストリーは終盤見事に穏やかな救いで終わる。
 やや安直だと思う人もいるかもしれないが、人間なんて単純な生き物で、ちょっとした好意に感激し考えや思いを変えてしまう。
                
 この映画でいえば、検事の妻役のサンドラ・ブロックに見られる。夫ともども若い黒人二人組に襲われ、車を奪われてしまう。家の鍵を頻繁に交換せよと夫に迫ったり、また、食器洗い機の中に洗浄済みの食器があるのを見つけたりしたとき、家政婦に洗ったあとは食器棚にしまっておけと、いずれもヒステリックにわめく。
 そんな折、階段で足を踏み外して怪我をする。そのとき、助けを求めた長年の友人たちは、自分の都合を言って断ってくる。
 ただ一人家政婦が車で病院に連れて行ってくれた。そして家政婦に「あなたは親友よ」といって抱きつく。足が痛くて不安な状況のとき、差し出される暖かい手ほど何事にも変えがたい貴重なものと思うものだろう。

 ドン・チードルの抑えた演技や相棒のリアを演じたジェニファー・エスポジートの目の演技に魅了されたし、テレンス・ハワードの苦渋の選択に共感を覚えて身の縮む思いもした。
 それに、LAで住むということは、かなりのストレスに晒される覚悟がいるのかもしれないと想像させられる。映画だけの話ならいいけれど。映画は時代を映す鏡ともいわれるので果たして?

 監督ポール・ハギス1953年3月カナダオンタリオ州生れ。‘05年「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー脚本賞を受賞。
 最近作として、クリント・イーストウッドと「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」がある。「父親たちの星条旗」はアメリカから見た硫黄島の戦い、「硫黄島からの手紙」は日本から見た硫黄島を描いたという。期待したい作品。

 キャスト サンドラ・ブロック1964年7月ヴァージニア州生れ。’94年「スピード」の大ヒットで注目される。この映画ではもったいない使われ方だ。
 ドン・チードル1964年11月ミズリー州カンザスシティ生まれ。‘04年「ホテル・ルワンダ」でアカデミー主演賞にノミネートされる。
 マット・ディロン1964年2月ニューヨーク州生れ。
 ジェニファー・エスポジート1972年4月ニューヨーク生まれ。イタリア系アメリカ人。
 テレンス・ハワード1969年3月イリノイ州シカゴ生まれ。期待の若手黒人俳優の一人。
 ライアン・フィリップ1974年9月デラウェア州ニューキャッスル生れ。’99年リース・ウィザースプーンと結婚、リースの方が先にアカデミー賞を受賞する。