カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、ニューヨーク・タイムズが報じる1959年11月15日カンザス州で起きた一家惨殺事件を、かつて隣人で「アラバマ物語」の著者ネル・ハーバー・リーを助手兼ボディガードとして取材に赴く。リーをボディガードというのは冗談だろうが。
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映画は導入部から暫らくは、カポーティという人間を描いていく。列車のポーターに金をやりお世辞を言わせるとか、パーティでの、饒舌な売れっ子作家振りや、また刑事部屋で、自分のマフラーを指差し高級マフラーだと言ったりする奇癖の持ち主に描かれる。もっとも、これがのちに生きてくるが。
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一つ疑問が出てくる。カポーティは、なぜこの事件に興味を持ち取材し作品にしたのか?
答えがあった。「ティファニーで朝食を」とは違った道を切り開きたい。“ノンフィクション小説”という全く新しいジャンルだ。というセリフがある。
そして二人の犯人のうちペリー・スミス(クリフトン・コリンズ・Jr)に事件の核心、惨劇の夜の事実を聞くために接近する。
二人は再三の死刑延期の末、執行される。この死刑執行前のカポーティが二人と会う場面が強烈な印象を残す。カポーティは、涙を流しそれこそ慟哭というにふさわしい。
このときのホフマンの演技が、演技だろうと思うが顔は真っ赤になり、額には血管が三本浮き出ている。カメラは一瞬も場面転換はない。俳優が渾身の力で演技したのだろう。こんな場面を見たことがない。
その涙は一体何のためだったのか。死に行くスミスを憐れんでいるのか。あるいは、スミスが心から信じてくれたが、自分は欺瞞で糊塗して人間の心をもてあそんだことに対してか。おそらくそれらが交錯したのだろう。
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冬枯れの冷たい荒涼としたカンザスの風景、刑務所の暗い壁と鉄格子、絞首刑のショッキングな場面、静かで単調なピアノの旋律に久しぶりの映画の感動を味わった。
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンもさることながら、ネル・ハーバー・リー役のキャサリン・キーナーも決して美人ではないが、抑えた雰囲気で時に輝くような表情は忘れられない。
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キャサリン・キーナー
それと、死刑囚ペリー・スミス役の、クリフトン・コリンズ・Jrも、目の覚めるようなハンサムではないが、こちらも印象に残る。
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立っているのが、クリフトン・コリンズ・Jr
刑事役のクリス・クーパーは、そつなく目の演技が光る。
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なお、トルーマン・カポーティは、この取材から「冷血」を書いたが、その後は目立ったものは書いていないらしい。死刑囚との交流が何らかの作用をしたのだろうか。暗示する場面もあったが。
監督 ベネット・ミラー1966年12月ニューヨーク生れ。ドキュメンタリー作品「The Cruise」で、ベルリン映画祭はじめいくつかの映画祭で賞を受賞。二作目の本作ではNY批評家協会新人監督賞を受賞。アカデミー賞では監督賞にノミネートされ、一躍期待の監督として瞠目されている。
キャスト フィリップ・シーモア・ホフマン1967年7月ニューヨーク生れ。脇役での出演が多く私の観た「パンチドランク・ラブ」や「コールド・マウンテン」にも出ていたようだが記憶にない。その彼がこの作品でアカデミー主演男優賞をはじめ全米批評家協会賞、LA批評家協会賞、ゴールデングローブなどで主演男優賞を総ナメにしている。ただ、彼の風貌から見て、役柄は制約されるだろう。
キャサリン・キーナー1960年3月マイアミ生れ。キャリアは結構長く、本作でもアカデミー助演女優賞にノミネートされるほどの演技派。
クリス・クーパー1951年7月ミズーリ州カンザスシティー生れ。個性的脇役として群を抜く。
クリフトン・コリンズ・Jr1970年6月ロスアンジェルス生れ。