2005年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞にノミネートされた作品。ペンシルヴァニア州ポッツヴィルにあるオーデンバック・ビール醸造に勤めていたダグ・ピアスは、クビを言い渡されて四週間が過ぎようとしていた。(ちなみにポッツヴィルは実在の町)
カナダのトロントからエドナ・バウアーズという高齢の女性からの手紙が届いた。一族の鼻つまみ者の伯父のラス・ピアスを知っていて、伯父の遺品を渡してもいいと言う。ダグは失業中で、時間だけは有り余るほど持っていた。したがってその婦人宅に赴く。
次は引用“蔦におおわれたレンガの建物のドアが開いたとき、ダグは住所を間違えたと思った。テレビキャスターの着るようなスーツ姿で、赤味がかかった金髪をボーイッシュといってもいいほど短くカットしたその女性は、誰かのおばあちゃんというより、むしろ、「あのひとは今」欄に載っている五十年代のアイドルスターのよく撮れた写真を連想させた”
そんな女性から伯父の殺人事件の解明に手を貸してくれと言われる。ダグは、もともとジェイムズ・ボンドを夢見たり、インディ・ジョーンズの物語を空想することも好きだった。冒険を夢見ていたのだ。
ほとんどの男は子供っぽい部分を残していて、一人で旅や冒険に出かけ美女に出会うのを夢見ている。
ダグは、モロッコのカサブランカからエジプトのカイロ、サウジアラビアのバーレーン、シンガポールへと飛び回る。いや、飛び回らされるが正しいかも。ステキな美女とベッドをともにしたり迷路のような路地を追っかけられたり壮絶なカーチェイスなど、夢に見た冒険が待っていた。が、文章がだれる部分もあって今ひとつ没入できなかった。さきに読んだジョージ・P・ペレケーノスやトマス・H・クックなどのベテラン作家は独特の文体を持っていて読者を引きずり込むが、この作家は今一歩というところか。しかし、シンガポールの描写は、観光案内の役割を果たしていて、旅行の計画があれば参考になるだろう。
著者は、ニューヨーク州ローチェスター生れ。アメリカ陸軍に数年勤務したあと、大学で文学と歴史を学ぶ。卒業してからは高校教師、中東での英語教師を経て、現在は広告会社でコピーライターとして働いている。そして彼の自己紹介は、「旅に出ずにはいられない男。ときどきはスキューバダイバー。永遠のサキソフォン初心者」とある。