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読書 ジョン・グリシャム「大統領特赦」

2007-07-26 13:18:54 | 読書

              
 リーガル・サスペンスのヒットメーカー、ジェットコースターの展開とまではいかないし会心の作とまでは言えないのではないだろうか。
 ロビイストの大物ジョエル・バックマンが、大統領特赦で連邦刑務所から釈放される。これには裏があって、CIA(アメリカ中央情報局)が画策したものだった。バックマンはCIAのエージェントらしき男とともにイタリアのボローニャに連れて行かれる。バックマンは解き放たれた餌だった。
 イスラエルのモサドやロシア、中国の工作員が追っ手となる。なぜ追われるのか、中国が密かに打ち上げた偵察衛星「ネプチューン」を無力化するソフト「JAM」の存在とそのソフトにバックマンが深いかかわりがあることだった。
 身の危険を感じたバックマンは、あらゆる状況を利用して、スイスの自分の貸金庫にあるJAMのディスク四枚と銀行口座から金を引き出しアメリカに振り込んだりしてミュンヘン経由帰国する。そして、かつてのウソや騙しのテクニックを適度に散りばめ身の安全を確保する。

 今回の作品は国際謀略小説というそうだが、スパイ・テクニックなどは誰でも持っている想像力の範囲内としか思えない。(もっとも、著者あとがきで諜報関係者や電子監視装置類、衛星電話やスマートフォン、盗聴器、録音機、マイクなどについての知識はないに等しいと断っているが)
 やはりジョン・グリッシャムは、弁護士の法廷戦術が似合うようだ。それにこの人は男女の濡れ場をあまり描かない。この作品でもイタリア語習得のためにすらりとした美人のフランチェスカにレッスンを受けるが、二人の関係があまり進展しない。フランチェスカの夫がガンの末期症状で意識不明の状況という設定のせいによるのかも。なら一層のこと夫を死亡させて、急接近を図るのも悪くはないだろう。 バックマンは長い刑務所生活で女性を求めているのは確かで、フランチェスカも病身の夫を抱えていれば性生活も遠のいている筈だ。もし、ロマンスが生れて苦悩とともに再会を待ち焦がれるとすれば、余韻がもっと残る……と思わなくもない。やや禁欲的な記述だった。
 それにボローニャでの記述がかなりのページを占める。著者あとがきによると、バックマンを隠すのはどこでもよかった。前々からイタリアという国やイタリア製品すべてにほれ込んでいたこともあって、現地調査のためボローニャを訪れ魅了されたと言っている。
 ある人が言うには、作家は何かを調べて熟知すると、すべて作品に織り込みたくなるそうだ。グリシャムもその轍を踏んでいるのか。

 著者は1955年生れ。ミシシッピ州立大学、ミシシッピ大学ロースクールを卒業。‘81年から’91年まで弁護士をつとめ、’84年から‘90年まではミシシッピ州の下院議員を兼務した。’89年に『評決のとき』を出版。法曹界を舞台としたサスペンスが爆発的な人気を呼び、著作が次々と映画化された。主な著書に『法律事務所』『ペリカン文書』『依頼人』など。