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ジョン・グリシャム「最後の陪審員」

2008-08-06 13:08:09 | 読書

               
 “新聞とわたしは、ともに成長し、成熟してきた――その結果、わたしは大人になり、新聞は利益を生み出す存在になった。タイムズ紙は、地方小都市の新聞の理想形になっていた――日々の出来事の鋭い観察者であり、歴史の記録者であり、政治や社会問題についてはおりおりにコメンテイターの役を果たす。
 わたしはどうかといえば、ゼロの状態からやみくもに手さぐりで、しかも信念を曲げずに何かを築き上げた若者だった”
 ミシシッピー州クラントンの町にある週刊新聞社フォード・カウンティ・タイムズ社の若き社主ウィリー・トレイナーがドライブ中に浸る感傷である。

 というのもつい先ほどそのタイムズ社を150万ドルで譲渡するための膨大な書類にサインを済ませたからだった。弱冠二十三歳で勤めていたタイムズ社が倒産の崖っぷちに立たされたとき、五万ドルを投じて手に入れたのが発端だった。
 この金は都合よくうなるほど金を持っている祖母ビービーから借りたものだ。この青年の成功物語と言ってもいい。
 この男には運もついていたようで、若き二児の母で魅力的なローダ・カッセロウがレイプされて殺されるという事件が起こる。逮捕された容疑者は、この地方の小賢しいマフィアといわれ嫌われているバジット一家の一員ダニー・バジットだった。
 この事件を追うに従って新聞の契約発行部数は増えていく。ウィリーは精力的に近隣のニュースを紙面に登場させ、ある黒人一家との交流を軸にローダ・カッセロウ事件が予想もしない展開になっていくのを描く。
 事件の流れを追いながら派生する諸問題、人種や宗教、地域社会の隆盛と衰退といったことに取材やコメントを続けた。この人種や宗教となるとわたしには理解するのにちょっと荷が重い。
 地域社会の隆盛と衰退となると日本国中リトル・アメリカといってもいいショッピング・モールがその象徴といっていい。クライトンの郊外にも〈バーゲンシティ〉が出店することになった。全国展開するこの会社は、倉庫のような店舗内であらゆる商品を破格の安値で提供するディスカウントストア方式をとり、広々とした店内は清潔そのもの、カフェや薬局や銀行が併設されているばかりか検眼クリニックと旅行代理店まであった。
 この出店の結果ダウンタウンの商店は閉店が相次ぐ。日本の各地もこのような現象に悩んでいるはずだ。この流れは押しとどめることが出来ないところまで来ているのかもしれない。なぜなら消費者が望む姿がそこにあるからだ。
 広い駐車場、清潔な売り場に豊富な商品、子供づれでも楽しいファーストフード店やゲーム・センターとなれば……本書は生きのいいピッチャーが投げる150キロの速球にはたとえることは出来ないが、技巧派のピッチャーとしては十分使えるといったところか。
コメント
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