どうしてこの本を読んだのかというと、ニコラス・ケイジ主演の「ハングリー・ラビット」という映画のせいだ。この映画が組織的な交換殺人を業としていて、妻がレイプされた上重傷を負わされたニコラス・ケイジに「犯人を代わりに殺してやれる」と持ちかけてくる。そこでふっと湧いたのが仇討ちだった。
江戸時代には公認の制度だった。ネットでこの本がヒットしたというわけ。さて、この本、10編の短編からなっている。その一つが表題の、ひとごろしだ。真理や情、命がけの恋や詐欺商売までなかなか色とりどりで面白い。
この中に「鵜」というのがある。これが印象に残った。実に悲しい恋で胸が押しつぶされそうになる。愛しい人を待ちながら釣り糸を垂れる布施半三郎。
70日ほど前、この淵で逢う約束をした。彼女、ただこは現れなかった。ただこは、筆頭家老藤江内蔵允(ふじえ くらのじょう)の妻だった。夫と年齢が30歳も離れている。ただこはまだ20代中ごろ。何故半三郎と出来たのかは、容易に想像できる。
そして、半三郎との約束を守るために家を出ることを決心。その日、籠に乗ったとき暴れ馬に籠を押しつぶされて死んでしまう。それと知らずに待ち続ける半三郎。
表題の「ひとごろし」は、臆病者と周囲から言われている双子六兵衛が、上意討の相手剣術と槍の名手仁藤昂軒(にとう こうけん)に奇手で挑む。これはコメディ・タッチの一編だ。
気楽に読んで、ほっとした気分を味わえる一冊。