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老々介護の現実はどこの国も同じ「愛、アムール」劇場公開2013年3月

2014-02-23 18:08:04 | 映画

                  
 この映画を観ていてつくづく思うのは、究極には人生というのは死を待つ長い列に並ぶことだと思い知らされる。列が短くなるにつれそれが現実感を伴って私たちに迫ってくる。

 このDVD化された映画を最初はあまり観る気がしていなかった。何も映画で息苦しい場面を観ることもないし、自分にも襲い掛かってくるかも知れない嫌な病気を見て楽しいはずがない。   が、DVDからバックアップ・ソフトで外付けハードディスクに収録しておいたのを、暇に飽かして観た。 

 音楽家の夫婦、夫のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)が妻アンヌ(エマニュエル・リヴァ)を介護するといお話である。ところが切り口が違った。いきなりアパートでアンヌのドレスを着た屍を警察が確認する。

 そして一転ざわついた演奏会場。カメラは観客席を向いたまま動かない。しばらくして観客は拍手をして演奏家を迎える。カメラは観客席を向いたまま。ピアノの音が流れる。これがオープニングでフラッシュバックの始まり。

 映画にはBGMが欠かせないが、この映画にはほとんどない。場面もアパートの室内だけ。アンヌは頚動脈が詰まっていてリスクの低い手術を受けたが、失敗率5%のうちの一人になった。アンヌの自宅で療養したいと言う強い希望があって老老介護の始まり。

 その日常が克明に描写されていく。食事、入浴、排泄、就寝。入浴の看護師の援助以外は夫の手助けが必要だ。病状は悪くなる一方。夫の疲労は重なり悪夢に悩まされる。遂に過酷な決断の日がやってくる。

 「痛い、痛い」とうわ言をいうアンヌに枕を押し付けて体重を乗せる。暴れるアンヌ。やがて静かになる。

 その後のジョルジュの表情に変化はない。キッチンにある小さなテーブルでジョルジュは、紙に何かを書いていた。羽音がして振り返ると以前にも入ってきた鳩がひょこひょこと動き回っていた.彼の娘エヴァ(イザベル・ユベール)宛の手紙なのだろう。

 そこには次のように書き足してあった。「きっと信じないだろうが、室内に鳩が飛び込んできた。これでもう2回目だ。中庭に面した窓から入ってきた。今回は鳩を捕まえたが、それほど難しくなかった。ただ、また外へ逃がしてやった」

 この鳩は何を意味しているのだろうか? 鳩を捕まえる場面の後に、キッチンで今は亡きアンヌが食器を洗っていてジョルジュに散歩を促すという場面つながる。ジョルジュが鳩を捕まえた時の愛おしい仕草からみると、この鳩はアンヌの成り代わりだと信じているように見える。肉体は滅びても心はお互いが出会ったときのまま。

 両親のいなくなった部屋を訪れたエヴァは、居間の椅子に腰掛けて追憶にふける。映画はここで終わるが、これほど寂寥感の漂う場面はないだろう。

 観る気の進まなかった映画ではあったが、二人の俳優の演技力に圧倒され、製作の監督やスタッフの高い力量には敬服してしまった。
            
            
            
            
監督
ミヒャエル・ハネケ1942年3月ドイツ、ミュンヘン生まれ。

キャスト
ジャン=ルイ・トランティニャン1930年12月フランス、ヴォクリューズ生まれ。
エマニュエル・リヴァ1927年2月フランス生まれ。
イザベル・ユベール1953年3月パリ生まれ。