70代の優しい銀行強盗として名をはせたフォレスト・タッカーの実話を描く。観終わって犯罪映画だったとは思えない余情と、なぜか心が落ち着く感覚を味わった。
タッカーを82歳のロバート・レッドフォードが演じ、一人だけの牧場主ジョエルを69歳のシシー・スペイセクが演じる。強盗仲間に72歳のダニー・グローバー、69歳のトム・ウェイツ。ハント刑事にケイシー・アフレックという配役。
身なりのいい老紳士を装うタッカーは、鞄を片手に銀行の支店に入っていく。支店長に預金の話や相続の話、ローンの話を持ちかけながらスーツの内ポケットを見せる。そこには拳銃の銃杷が覗いている。「じゃあ、現金を用意していただきましょうか」
タッカーは、取引を終えたビジネスマンのように回転ドアから外に出る。当然銀行は、警察直通のスイッチを押す。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。路地から路地を駆け抜けフリーウェイに乗る。トラックのボンネットを開けて覗き込む女がいる。トラックの前に車を止めて「どうしたんですか、ちょっと見ましょうか」。その横をサイレンを鳴らしたパトカーが走り去る。
覗き込むタッカーではあるが、何もしようとしない。女は即座に判断した「この男は車に詳しくない」。タッカーは女を送り届けるしかない。これがキッカケで牧場主のジョエルを知ることになる。途中の食堂でタッカーは、セールスマンを名乗り「今は人生で出来なかったことのリストを作っている」と言う。普通はやったことを回想するが、やれなかったことをリストアップはしない。やれなかったことの方がはるかに多いからだ。タッカーの場合は、失敗した銀行強盗のことなのだろう。
実在したフォレスト・タッカーは、1920年6月23日に生まれ、2004年5月29日83歳で亡くなる。脱獄の名手でもあった。18回成功して12回失敗した。つまり脱獄30回挑戦し18回の成功は、成功率6割の高率ということになる。誰にでも好感を持たれた銀行強盗として歴史に残る。
それにしても人は80歳を過ぎると見事に変貌する見本のようなロバート・レッドフォード。80歳を過ぎたら自身の若さの残滓は、一切ないことを覚悟しよう。
監督は、 映画監督、脚本家、編集技師、映画プロデューサーであるテキサス州ダラス在住のデヴィッド・ロウリー、1980年生まれの40歳。
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