文化逍遥。

良質な文化の紹介。

2018年アメリカ映画『行き止まりの世界に生まれて』

2020年10月01日 | 映画
 9/28(木)、千葉劇場にて。原題は、『Minding The Gap』。「Gap」は日本語でも「ギャップ」と言うが、「割れ目」が原義。ここは差別や格差などの広い意味で「溝」を意味しているのだろう。「Mind」は「気にする」が原義で、ここは「避けられぬ苦しい思い」のようなものか。あえて、自分なりに意訳してみると「深き溝に囲まれて」といった感じ。





 イリノイ州ロックフォード。ラストベルト(Rust Belt)と呼ばれる「かつての繁栄も消え、今は錆びついた」北部の町。そこに暮らす3人の少年。黒人のキアー、白人のザック、そしてアジア系のビン。それぞれに家庭環境に問題を抱え、閉塞した社会の中で出口を見つけられず苦しんでいる。そんな中でも、3人はスケートボードに打ち込むことで、互いの相違を超え絆を深めてゆくが・・・。
 監督は3人の中の一人ビン・リューで、彼が少年の頃から撮りためた映像を編集して一つの作品にしたもの。つまり、この作品は、簡易的なカメラで撮影された映像を編集したドキュメンタリー映画、ということになる。おそらく、かなりな時間撮影された映像を90分ほどに編集してある作品。なので、その編集される中である程度の「作為」が入り込んでいるのは仕方がない。それを考え併せても、この作品は観る価値がある、と感じた。イリノイ州といえば、シカゴがあってモダンブルースの本場だ。街の風景とかに興味もあって、観に行ったのだが、それにしても「これ程さびれているのか、まるでゴーストタウンだ」と驚きを禁じ得なかった。
 少年たちが大人になるにつけ、抱えていた心の歪みと向き合わざるを得なくなる状況は見ていて辛かった。が、これはおそらく、日本でもいずれ、いやすでに発生している困難なのだ。子供たちは、確かなアイデンティティーを得られず、苦しみ続けなければならない。個人的には、その一因は過度なデジタル化にあると思っている。便利さの代償として、心の豊かさを失ってしまった。いつの時代も、年寄りは若者を嘆くものなのかもしれないが、現在を作ったのは年配者たちな訳だから、自分にもその責任の一端はあるのだ。今は、静かに見守っていくしかない。

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