合わせて読んだ流転の海『花の回廊』第六部ですが、これはかつて読んでいるはずです。
しかし、いま読み返しても松坂熊吾の年齢に近づいて読むと
また味わいが深いのです。
同時に読んだ西村賢太の薄汚い私小説と比べ暗澹とした気分に
自分まで汚された感じからガラッと救ってくれました。
同じように自分の出生の物語である戦後日本の歩んできた近代史
であり、私小説でもあるのに全然漂うものから描かれているもの
の質が違うのです。
文学的なうまさというか美しさと読んで自分の歩んできたもの
築いてきた精神史なども同じような日本人の平均的な考えも
熊吾の視点と重なる物を感じます。
物語として面白いのはそんな熊吾の分析や先を見通す目や
人物判断が的確的な洞察力がありながら、時に背中に刺青を
しょった男にビール瓶で頭をかち割りに行ったり、なんども
騙されて金を持ち逃げされたりして事業に失敗を重ねている
何か欠落した人格にとても魅力を感じるのです。
どうしようもなくでたらめな激しい気性とか激しやすい種族と
朝鮮人を評しておきながら頭に血が上るととてつもない暴力を
ふるう熊吾に批判できるのかとかいろいろ突っ込みどころもあるのです。
しかし、細かい人物描写や情景の差し込みなど所々にうまいなあ
と感じるところがあるのです。
人間と日本、小説っていいなあと感じる本でもあります。