伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

現代の裁判[第8版]

2022-06-26 19:55:01 | 人文・社会科学系
 裁判所の仕組み、裁判を担う法律家(裁判官、検察官、弁護士等)、民事・刑事等の裁判手続と司法制度改革について概説した本。
 1998年に出版された初版から少しずつ改訂しているということからだと思いますし、まぁ確かに一回書いたものを大幅に書き直すのは面倒だとは思うのですが、この本のたぶん中心的な部分と思われる第4章の裁判の仕組みの記述が、「現代の裁判」と題して、何度も改訂され、この本自体は2022年の改訂版だということを考えると、ふさわしくないというか、「いつの話だ?」と首をかしげざるを得ないところがあり、最後に第5章で裁判をめぐる現代的課題という章を設けて司法制度改革の説明などをすることでお茶を濁している感があります。「民事訴訟に要する時間のかなりの部分が証人尋問・当事者尋問関係の時間であることは否定できない」(178ページ)って、今どき民事訴訟で複数期日にわたる尋問はほとんどなく、民事訴訟にかかる期間の大半は主張整理(準備書面のやりとり)だというのは実務家の間では常識だと思います。刑事裁判の仕組みのところではなんと裁判員制度には触れられていません。ここ10年で3回改訂されているのに、第4章の説明はそれ以前のままなんでしょうか。また、「争点整理期間、証拠調べ期間、判決言渡予定時期等を定めた審理計画の策定」(171ページ)って、民事訴訟法の規定はありますが、私は現実には全然経験ありません。医療過誤事件の設例で病院が倒産したので遺族が病院の債務を連帯保証していた院長に支払いを請求(184ページ)とされてますけど、医療過誤の事件(それも病院は過失を否定して争っている)で遺族に対して院長が病院の債務を連帯保証するなんてことがあり得るんでしょうか。
 そういったことなど、不用意に思えるところや裁判実務の現状と合ってないように思える点がありますが、日本の裁判制度全般をひと渡り理解するにはよさげな本です。


市川正人、酒巻匡、山本和彦 有斐閣アルマ 2022年4月10日発行(初版は1998年6月)
コメント
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