伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本

2022-06-27 23:59:28 | 実用書・ビジネス書
 介護事業者が、利用者やその家族による介護職員に対するハラスメントを防止したり、ハラスメントがあった後にどう対応するかについて論じた本。
 利用者によるハラスメントは、本来のセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントと異なり、行為者が使用者の指揮監督下にないため、なかなか対応が難しいところです。ハラスメント防止・是正のための指揮監督の権限の問題に加えて、就労していない個人の場合には、社会経験がなく他人と協調できないタイプのすごく身勝手で視野が狭くそれでいて自分が正しいと思い込んでいる人が、往々にしているもので、そういう点でも対応の難しさがあります。弁護士として仕事をしていても、ときどきそういう相談者に遭遇しますし、人権相談とか無料相談とか銘打っているとそういう経験をする度合いが上がります。
 そういう対応の難しいことについて、どう書いているのかと期待して読みましたが、基本的には、経営者が利用者を尊重するのと同様に職員も守るという姿勢を示す、組織として対応する、ハラスメントがあったときにはサービス停止等ができるように契約条項等を見直すというくらいで、むしろハラスメントを受けた職員のケア、相談態勢、相談できる環境を整備するということの方に重点が置かれ、現実の対応に際してはケースバイケースなので慎重に聞き取り対応するといったところです。まぁ「正解」も「マニュアル」もないでしょうから、そう書くしかないんでしょうけど。
 他方で、個人利用者に対して、法人事業者が、組織として対応し、ハラスメントは許さないという姿勢で毅然として対応するという方針は、強い者が弱い者を力で踏み潰すということにもなりがちです。家族の分までの掃除・調理・洗濯とか窓拭きとかが「不適切なサービスの強要」だとして「精神的暴力」でありハラスメントとされている(14~15ページ)のを見ると、規則や契約上のサービスからはみ出しているということなんでしょうけど、利用者側から見たらそういう口実で業務を拒否してるだけじゃないかと思えるかも知れませんし、いずれにしてもそれは契約外のサービスなのでできないとか別料金だと言えば済む話で、それを「ハラスメント」と言うことには疑問を持ちます。まぁ、利用者側の要求の仕方にもよるでしょうけど。
 この本の本題ではありませんが、著者が「はじめに」でカウンセラーの仕事について「カウンセリングを受けに来るクライアントには、悩み事を解決する答えをカウンセラーに求める人もいます。しかし、カウンセラーが答えを示すことはありません。答えはすでにその人の中にあり、それをクライアントが自分で見つけられるよう支援するのがカウンセラーの役割です」と書いています。そうなんだ、と腑に落ちました。弁護士は、相談者の抱える紛争等について、解決のために何ができるか、そうした場合にどうなりそうかを答えるのが仕事です(最終的にどうするかを決めるのは本人ですが)。その意味でやっぱりカウンセラーとは仕事が違います。ときどき、特に自分が希望する答えがない(もともと無理な事案)ときに、弁護士にカウンセラーの役割を求めるというか、共感し慰めて欲しいという相談者(カウンセラーとしての資質がない弁護士には相談させるなとか)がいますが、それが欲しいならよそに行ってもらった方がいいなと思います。


宮下公美子 日本法令 2020年9月20日発行
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