伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

未来

2022-06-29 20:40:09 | 小説
 大好きなパパが病死し、時々調子のいい日は人間に戻るが大部分の日は人形状態のママと2人暮らしの10歳の佐伯章子に、20年後の30歳の章子からと書かれた励ましの手紙が届き、それを受けて返事を返す方法を思いつかないままに章子が30歳の章子への返事の手紙/日記を書き続けるところから始まる小説。
 「未来からの手紙」という謎を抱えたミステリーとしての体裁を保ちながら、児童虐待、性的虐待を主要な、容貌の美醜による周囲の反応・差別的対応を副次的なテーマとする問題提起型の作品の色彩を強く帯びています。
 「早く失せろ!このブサイクが!二度と、わたしの前に顔を見せないで」「あんたとヤッた時が、一番気持ち悪かったんだから」(455ページ)という言葉を「かばおうとしてくれたのではないか」(462ページ)と考える心情をどう読むか、そのときの感情を当事者はどう整理して折り合いをつけ過ごしたのか、またそれを読んだ者がどう受け止めるか、作者は敢えてそれを書かないことで作者らしい人間の卑小さ、人間への絶望感をより際立たせているように感じられます。


湊かなえ 双葉文庫 2021年8月8日発行(単行本は2018年5月)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする