大学生向けに、日々の生活や今後の人生で関わりを持ちそうな法律について取り上げて説明した本。
さまざまな領域での法律問題を解説していて、法律に関心を持ってもらうという点で適切な本だと思います。
他方で、一人で幅広い分野を書くことには限界があり、疑問に思う点や著者の好みによる偏りが出てくるのは、致し方ないのでしょう。私の専門分野の労働問題についていうと、「契約社員(有期雇用の労働者)」の説明で「期間の定めのある労働契約は、労働者と会社の合意により契約期間を定めたものであり、契約期間の満了によって労働契約は自動的に終了することとなります」(34ページ)と書いて、それ以上に契約更新に関する説明がなされていないというのは困りものです。民法の原則では有期契約は期間が満了したら終了するのはそのとおりなんですが、この本でも繰り返し書かれているように当事者対等を前提とする民法の原則は労働者を保護するために修正されており、そのために労働法があるのです。有期労働契約が繰り返し更新されるなどの事情により労働者が契約更新を期待することが合理的と言える場合には使用者の契約更新拒絶は制約されます。そこを説明しないで、読者の学生が、有期契約(契約社員)は契約期間が来たら打ち切りで文句も言えないんだと思い込んでしまうと困るのですが。
また、著者の専門は消費者法ということで、入学しなかったときの前納学費の返還にも言及している(11ページ)というのに、借金に関する説明(59~61ページ)で、クレジットと住宅ローンの説明はしても奨学金に関してまったく触れないのはいかがなものでしょう。大学生が知っておきたいという観点では、住宅ローンより絶対身近な問題なんですが。保証人問題の説明でアパートの賃借(14~15ページ)、就職時の身元保証(33ページ)は説明しても、学生にとっては悩みのタネになる奨学金の親族保証や保証料問題にはまったく触れていません。日本学生支援機構に何か負い目でもあるのかと思ってしまいます。
細川幸一 慶應義塾大学出版会 2022年3月15日発行(初版は2016年4月)
さまざまな領域での法律問題を解説していて、法律に関心を持ってもらうという点で適切な本だと思います。
他方で、一人で幅広い分野を書くことには限界があり、疑問に思う点や著者の好みによる偏りが出てくるのは、致し方ないのでしょう。私の専門分野の労働問題についていうと、「契約社員(有期雇用の労働者)」の説明で「期間の定めのある労働契約は、労働者と会社の合意により契約期間を定めたものであり、契約期間の満了によって労働契約は自動的に終了することとなります」(34ページ)と書いて、それ以上に契約更新に関する説明がなされていないというのは困りものです。民法の原則では有期契約は期間が満了したら終了するのはそのとおりなんですが、この本でも繰り返し書かれているように当事者対等を前提とする民法の原則は労働者を保護するために修正されており、そのために労働法があるのです。有期労働契約が繰り返し更新されるなどの事情により労働者が契約更新を期待することが合理的と言える場合には使用者の契約更新拒絶は制約されます。そこを説明しないで、読者の学生が、有期契約(契約社員)は契約期間が来たら打ち切りで文句も言えないんだと思い込んでしまうと困るのですが。
また、著者の専門は消費者法ということで、入学しなかったときの前納学費の返還にも言及している(11ページ)というのに、借金に関する説明(59~61ページ)で、クレジットと住宅ローンの説明はしても奨学金に関してまったく触れないのはいかがなものでしょう。大学生が知っておきたいという観点では、住宅ローンより絶対身近な問題なんですが。保証人問題の説明でアパートの賃借(14~15ページ)、就職時の身元保証(33ページ)は説明しても、学生にとっては悩みのタネになる奨学金の親族保証や保証料問題にはまったく触れていません。日本学生支援機構に何か負い目でもあるのかと思ってしまいます。
細川幸一 慶應義塾大学出版会 2022年3月15日発行(初版は2016年4月)