伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ぼけますから、よろしくお願いします。おかえりお母さん

2022-07-06 19:28:36 | ノンフィクション
 母親が認知症に罹患し、呉での高齢の父親との2人暮らしを、東京での映像制作等の仕事をしながらときおり帰郷して見守る著者の目から父母の関係、自分と母あるいは父との関係とその変化を書き綴った中国新聞連載記事を出版したもの。
 「おかえりお母さん」の意味は154ページで明らかにされますが、最初にサブタイトルを見たときの予想とは違い驚きました。
 相手が誰かもわからなくなるには至らず、徘徊症状もなく、認知症が進んで母が父(夫)に甘えるようになるというのは幸せなケースと思われます。朝が来て起こされると蒲団の中から父(夫)に手を伸ばして「ほんならお父さん、起こしてやぁ」という母に父が母の手を握って蒲団から引っ張り出し「おはよう」と挨拶するということに「なんだか娘の私が気恥ずかしくなるほどの仲むつまじさ」「娘としては目のやり場に困ります」というのです(36~37ページ)が、夫婦仲がいいことは仲違いしてるよりよほどいいことで、気恥ずかしく思うなどと言わず、微笑ましく見ていればいいと思います。昔、「チャーミーグリーン」のCMで高齢者夫婦が手をつないで歩くのを気持ち悪いと声高にいう人びとがいたのを残念に思いました。高齢者夫婦が仲良くするのに人目をはばからせるような風潮はなくしていきたいところです。
 認知症患者の症状や心情に関しては、近年医師や介護関係者がたくさんの本を書いていて、認知症になったから突然重度になるわけでも、また何もわからなくなるわけでもなく、認知や記憶が悪くなっているのは本人がよくわかっていて、だからこそ不安になりあるいはそれを認めたくなくてイライラしているとかは、わりと広く知られるようになっています。この本は、専門家の側からではなく、家族の側から、1つの例について具体的に書くことで、読みやすく実感しやすいという点が売りかなと思いました。


信友直子 新潮社 2022年3月15日発行
中国新聞連載
コメント
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