殺人事件の犯人が大晦日のホテル・コルテシア東京のカウントダウン・パーティ会場に現れるという匿名の通報を受けた警視庁がホテル側に協力を求めて捜査員を潜入させて捜査を進め、捜査員の暴走をホテル側が牽制し嗜め苦情を言い、数百名が集う仮装/仮面パーティでの犯人検挙に向けた推理と迷走が描かれるミステリー小説。「マスカレード・ホテル」(2020年7月31日の記事で紹介)のシリーズ第3作、あるいは長編第2作になります。
謎を作り怪しい人物を増やすためでしょうけれども、コンシェルジュとなった山岸尚美が宿泊客からのリクエストに「口が裂けても、『無理』という言葉を使ってはいけない」という姿勢で対応していく場面が繰り返し描かれています。読んでいて、感心しますし、他方で客商売は大変だよねとも思いますが、ホテル業界はこういう出版物をどういう心情で受け止めているのでしょうか。建前としては、自分たちはそういう姿勢でサービスに臨んでいると言うでしょうけれども、こういうわがままな客、カスタマー・ハラスメントと言うべき客の無理な要求には本音では困り悩まされていると思います。こういう出版物を見て、ホテルはこういうサービスをするものなのだ(客の要求を「無理」と断ってはいけないのだ)、自分もこういうサービスを受けて当然なのだと思い込む者が出てくるということも十分に予想できます。弁護士も客商売ではありますので、自分の要求を実現できて当たり前とか、何でも自分の言うとおりにやれと言うわがままな/傲慢な人に出くわすことはときどきあります。私は、無理なものは無理とはっきり言いますし、基本的に「相手」がいる弁護士業務ではあまりにわがままな要求は拒否するのが正義だと思います(無理な要求を通すことは相手に犠牲を押しつけることにもなります)。「無理」と言ってはいけない、それがホテルのサービスのスタンダードだと言われることには、苦々しい思いを持っている人もいるのではないかなぁと、私は思ってしまいます。
東野圭吾 文春文庫 2020年9月25日発行(単行本は2017年9月)
謎を作り怪しい人物を増やすためでしょうけれども、コンシェルジュとなった山岸尚美が宿泊客からのリクエストに「口が裂けても、『無理』という言葉を使ってはいけない」という姿勢で対応していく場面が繰り返し描かれています。読んでいて、感心しますし、他方で客商売は大変だよねとも思いますが、ホテル業界はこういう出版物をどういう心情で受け止めているのでしょうか。建前としては、自分たちはそういう姿勢でサービスに臨んでいると言うでしょうけれども、こういうわがままな客、カスタマー・ハラスメントと言うべき客の無理な要求には本音では困り悩まされていると思います。こういう出版物を見て、ホテルはこういうサービスをするものなのだ(客の要求を「無理」と断ってはいけないのだ)、自分もこういうサービスを受けて当然なのだと思い込む者が出てくるということも十分に予想できます。弁護士も客商売ではありますので、自分の要求を実現できて当たり前とか、何でも自分の言うとおりにやれと言うわがままな/傲慢な人に出くわすことはときどきあります。私は、無理なものは無理とはっきり言いますし、基本的に「相手」がいる弁護士業務ではあまりにわがままな要求は拒否するのが正義だと思います(無理な要求を通すことは相手に犠牲を押しつけることにもなります)。「無理」と言ってはいけない、それがホテルのサービスのスタンダードだと言われることには、苦々しい思いを持っている人もいるのではないかなぁと、私は思ってしまいます。
東野圭吾 文春文庫 2020年9月25日発行(単行本は2017年9月)