伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

図書館島

2023-01-07 23:58:41 | 物語・ファンタジー・SF
 文字のない辺境の島ティニマヴェト島西部の村ティオムの農園主の跡取り息子ジェヴィックが、オロンドリア帝国から流れてきた家庭教師ルンレにオロンドリアの言葉と文字を習い書に夢中になり、父の死後交易のために大都会ベインに向かったが、その船中で出会った難病患者の少女ジサヴェトの霊に取り憑かれオロンドリア内の権力抗争にも巻き込まれる形で長い旅と冒険に出ることになるというファンタジー小説。
 書物と物語の力をテーマとする作品で、さまざまな物語が作り出され、また情景やエピソードが作り込まれているのはわかるのですが、冒険譚ではあっても例えば指輪物語的な明るさはないということもあってか、難解な印象と長すぎるなぁという感想を持ってしまいます。読んでいて、乾石智子ワールドを連想しますが、その乾石智子が解説を書いていて、「難しい。面倒くさい。翻弄される」と評しています(524ページ)。
 ホタンと呼ばれる「何の地位もない貧しい一家」に生まれた少女の短い人生でも80ページもの物語になるというところが、そういった庶民の一人ひとりの人生にも価値があると見える提起が、庶民の弁護士を名乗る私には好感できるところです。もっともその「何の地位もない貧しい一家」という家庭にも召使いがいるところ、本当の庶民や貧困層は視野の外という気もしますが。
 指輪物語の頃ならいざ知らず、21世紀に書かれた作品としては、男社会の男たち中心の冒険で、ジサヴェトの回想でさえ父親は好きだが母親を軽蔑し続ける、こういう作品を女性作家が書くというのはいかがなものかと思いました。
 ファンタジーには付きものの地図ですが、登場する地名で地図に出てないものが多すぎる感じがします。巻末に編集部による用語集が付けられています(私がそれに気付いたのは解説まで読み終わってからで、そんなものがあるなら最初に言ってくれと思いましたが、戻ってみると目次に書いてありました)が、用語の意味の末尾が「か」で終わっているものも見られ、出版する側でも読み切れない作品なのだとわかります。


原題:A Stranger in Olondria
ソフィア・サマター 訳:市田泉
東京創元社 創元推理文庫 2022年5月13日発行(単行本は2017年、原書は2013年)
世界幻想文学大賞受賞作
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする