伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

嫉妬/事件

2023-01-02 21:42:44 | 小説
 当初から共同生活を求めていた年下の30代男性に対して6年の交際を経て別れを告げながら、その男性が47歳の教師と暮らし始めたことを知るや、その相手を探索することに日常生活の多くを費やす数か月を送るという「嫉妬」と、中絶が犯罪であった1963年のフランスで妊娠した学生が中絶を実行するまでの憔悴、絶望、屈辱の様子を1999年に振り返るという「事件」のフランスではそれぞれ別に出版された2つの短編を組み合わせて出版したもの。
 「嫉妬」はストーカー的な愚かしい振る舞いをしてしまう、それも自分が振っておきながらそのような思いに駆られる人間の性を、どちらかといえば観念的に描いた作品です。
 「事件」は、むしろ、中絶の方法と費用の調達に苦しみながらそれでも軽はずみな行動や無駄遣いを止められなかったりする点で愚かしいとは言え、ふつうの学生が、中絶が禁止されていた時代には妊娠したということで遭遇し追い込まれる現実を描くことで、中絶禁止法制の、あるいはそれと同種の施策の問題点を示す作品です。
 2004年に出版されたこの本が、2022年に文庫化されたのは、作者のノーベル文学賞受賞にあやかったものでしょうか(発表は2022年10月6日ですから決まってからの出版ではありませんが)。ノーベル文学賞受賞者の作品にしては、テーマが身近で設定も展開も複雑でないこともあって、読みやすい作品でした。


原題:L'Occupation / L'Evenement
アニー・エルノー 訳:堀茂樹、菊地よしみ
ハヤカワepi文庫 2022年10月25日発行(単行本は2004年5月、原書は「嫉妬」は2002年、「事件」は2000年)
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