伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

いきもの六法 日本の自然を楽しみ、守るための法律

2023-01-06 20:22:09 | 人文・社会科学系
 動植物の採取等についての法規制を解説した本。
 動植物の保護の観点からの規制と、地権者・漁業権者保護の観点からの規制を並列的に説明していますが、ほとんどの場合、具体的な規制の範囲はネットで調べたり行政庁に聞かないとわからず、処罰の危険性を強調していて、読んでいると要するに動植物に手を触れるなと言われているとしか感じられません。特別保護地区(尾瀬や上高地も含まれる)では落ち葉や木の実を拾っても違反となる(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)(21ページ、28ページ)とか、森林の産物を窃取すると森林窃盗として3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるところ「山菜なども含まれると考えられるが、具体的には定義されていない」(22ページ、49ページ)とか、天然記念物に指定された昆虫は「死んだ個体や抜け殻などを触ったり持ち帰っても違法になる可能性がある」(32ページ、41ページ)などというのは、とにかく何も触るなと脅しているとしか思えません。著者の意図が、あるいは立法者の意図が、自然保護にあったとしても、こういうやり方には疑問と反発を覚えます。
 地権者・漁業権者のために、潮干狩りは違法(24ページ)、砂浜に打ち上げられた海藻さえ漁業権が及ぶ(97ページ)と警告しているのは、自然保護の観点とさえ思えません。監修者が元役人だからということなんでしょうね。法律の規制に例外を多く設け、最小限にする必要が(理論的には)ある理由の説明では、個人の権利を尊重したり調整するためなんていう私たち法律家がふつうに考える説明ではなくて「もし裁判に負ければ行政の責任が問われるし、仮に違憲判断(略)が出されれば法律を改正したり廃止したりする必要も出てきます」というもっぱら行政サイドの都合、お上目線の理由だけが挙げられています(10ページ)。法律についての一般的な考え方の説明ですが、驚きました。まさにこの本の性格・体質を示しています。
 特定外来生物(こちらは保護じゃなくてむしろ駆除したい)を捕まえたとき、食べてもいいが、必ず採集した場所で締める(殺す)ことが必要で、生かしたままで自宅に持ち帰ってから調理するのは違法だとしています(86ページ)。生きたままでの運搬が禁止されているので、法解釈としてはそうでしょうけど、駆除したい外来生物を自宅に持ち帰ってから食べたら違法って、本気で言ってます? そういう法律を作って真面目な顔して議論するの、本当に馬鹿馬鹿しいと思いませんか。
 こういうことをやっている議会や行政、こういうことを書いている役人が、生物保護に役立っているのか、その疑問の方を強く感じる本でした。


中島慶二、益子知樹監修 山と渓谷社いきもの部編 山と渓谷社 2022年4月10日発行
コメント
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