伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

2023-01-29 20:37:14 | ノンフィクション
 #MeToo運動拡大の転機となったハリウッドの大物プロデューサーハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ告発記事を書いたニューヨーク・タイムズの記者2名による取材の経緯と記事掲載後の反響等を記したノンフィクション。
 私にとっては、示談(記者の目からはもみ消し)の過程で弁護士が果たした役割についての記述が読みどころとなりました。
 記者の取材と被害者の告発の最大の障害となった口外禁止条項は、私の弁護士実務感覚では、例えば労働事件で和解するときに会社側からたいてい求められ、多くの場合労働者側も受け入れるものですが、違反したときのペナルティまで定めることはなく(会社側がペナルティの条項を求めることも稀にありますが、私は応じたことはありません)、それほどの圧力にはならないものです。しかし、ここで紹介されている契約条項では、被害者が所持しているすべての証拠を開示するとか、他の被害者への協力を禁止する、証言を求める召喚状が来たら連絡する(134ページ)、取材には決して応じない(135ページ)、「示談書は狡猾にできていて、被害者に告発をさせないよう縛り、もし口外したら相当な経済的損失を被るという重荷を課している」(149ページ)、「ふたりとも尋常ならざる制約を受け入れることになった」(164ページ)、(他の者によって)「真実が公表された場合でも、その真実を隠蔽することを求められていた」(166ページ)などとされ(実際の条項はもっとすごく込み入ったものと想像しますが)、富裕者側・加害者側の弁護士が被害者を抑え込むべく知恵を絞っているようすが窺われます。
 トランプの告発者たちの代理人となったフェミニスト弁護士グロリア・オールレッドに対しても、「オールレッドは被害女性に声を上げさせるということで評判が高かったが、その一方で、被害女性の口を封じ、性的嫌がらせや虐待の訴えを退けるためにひそかに示談に持ち込むこともしていて、それが彼女の収入源になっていた」(187ページ)という意地の悪い見方がなされているのはともかく、その娘の弁護士リサ・ブルームが、ワインスタインに対して、自分は大勢のセクハラ被害者(と称して金を要求する者)の代理人を務めてきたので、そういう人からあなたを救い出せるなどという手紙を書いていた(240~247ページ)というのには驚きました。いくら何でもそんなことするものでしょうか。


原題:SHE SAID
ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー 訳:古川美登里
新潮文庫 2022年5月1日発行(単行本は2020年7月、原書は2019年)
 
コメント
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