35歳独身子なしで仕事にあぶれてお金に困っているフリーライター飯塚桃子が、世間が注目する題材を取材して書くために、スーパーの前で目を離した隙に小学1年生の娘沙恵が行方不明となり警察が公開捜査に踏み切ったものの手掛かりが得られないまま、娘のことを待ち続け家事も放棄し離婚されてアルコールに溺れながら娘の情報を求めるチラシを配り続けた母京子に、取材申込みの手紙を書き続け、京子から承諾の返事をもらって、関係者から話を聞き続けるという小説。
沙恵の事件の真相とその後をめぐるミステリーとなっているのですが、むしろ自分の飯のタネのために他人の過去と心情に踏み込み聞き漁りながら、自分のことは棚に上げつつ関係者に対して非難の目を向ける飯塚の姿勢を描くことで、マスメディアあるいはライター稼業の業を論じているのかなと思いました。同時に取材を進めるうちに関係者への思い入れも生じてきて書けなくなっていき思い悩む姿も、ライターとしての悩みを示しているのでしょう。編集長が飯塚に対して「飯塚さんもフツーの人間だったなぁと思ってさ。企画をもってきた時はただの野獣のようだったから。」「フツー、ノンフィクションの企画をもって来る人って、こんな可哀想な人がいてとか、こんな酷い事件があってとか言うんだわ。だが飯塚さんは違ったから。あなたの開口一番は、売れるネタを手に入れましただったからね。人間としてどうよって思うが、ノンフィクションライターとしては大事な資質なんだよ、それ」「しかし、あまりに客観的で冷淡なのもダメなんだよ。新聞記事を読んで感動するか?」「本として出すなら感動させないと」「取材対象者への愛情がゼロかと思っていたから、ちょっとはあるんだと知ってホッとした」(237ページ)と言うのに、フリーライター経験者の作者の照れと自戒を感じました。
ラスト1行に小さなひねりがあります。これがカチッと嵌まる人もいると思いますが、私はちょっと外している感じを持ちました。
桂望実 光文社文庫 2020年10月20日発行(単行本は2017年4月)
沙恵の事件の真相とその後をめぐるミステリーとなっているのですが、むしろ自分の飯のタネのために他人の過去と心情に踏み込み聞き漁りながら、自分のことは棚に上げつつ関係者に対して非難の目を向ける飯塚の姿勢を描くことで、マスメディアあるいはライター稼業の業を論じているのかなと思いました。同時に取材を進めるうちに関係者への思い入れも生じてきて書けなくなっていき思い悩む姿も、ライターとしての悩みを示しているのでしょう。編集長が飯塚に対して「飯塚さんもフツーの人間だったなぁと思ってさ。企画をもってきた時はただの野獣のようだったから。」「フツー、ノンフィクションの企画をもって来る人って、こんな可哀想な人がいてとか、こんな酷い事件があってとか言うんだわ。だが飯塚さんは違ったから。あなたの開口一番は、売れるネタを手に入れましただったからね。人間としてどうよって思うが、ノンフィクションライターとしては大事な資質なんだよ、それ」「しかし、あまりに客観的で冷淡なのもダメなんだよ。新聞記事を読んで感動するか?」「本として出すなら感動させないと」「取材対象者への愛情がゼロかと思っていたから、ちょっとはあるんだと知ってホッとした」(237ページ)と言うのに、フリーライター経験者の作者の照れと自戒を感じました。
ラスト1行に小さなひねりがあります。これがカチッと嵌まる人もいると思いますが、私はちょっと外している感じを持ちました。
桂望実 光文社文庫 2020年10月20日発行(単行本は2017年4月)