伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

宙ごはん

2023-01-21 22:49:18 | 小説
 母親の川瀬花野が育てられないからと、叔母の日坂風海に育てられていた川瀬宙が、小学生となったのを機に、シンガポールに転勤した叔母夫婦の手を離れて、部屋にこもりきりで絵を描き続ける花野と暮らすことになり、花野の中学からの後輩で今も花野に思いを寄せる料理人佐伯恭弘にご飯を作ってもらい、料理を教えてもらいながら、さまざまな人間関係のもつれをみていくというお話を、宙が保育園年長~小学1年生、小学6年生、中学3年生、高校2年生、高校3年生のときについて綴った短編連作。
 時を空けた連作にすることで、同じ人についても違った面が見えてくる、その人自身が変化する、子どもの頃は知らなかったことがわかる、といったことが感じられ、物語と宙の思い・考えに膨らみが出てきます。家族のことについて、大人が子どもに知らせない、見せまいとしたことから、知らずにいたこと、誤解していたことがあり、人が諍い、和解して行く様は、現実の世界で、弁護士としては特に相続争いの原因となる兄弟姉妹等への恨み・妬み・仲違いとしてよく立ち現れます。話し合っても理解が進まないことも多くなかなかに難しい問題です。
 この作品では、難しい状態に追いつめられた者に料理を作り食べさせて心をほぐしていくというシーンが要となり、美味しいものを食べると幸せな気持ちになるということが、重要なコンセプトとなっています。現実の世界でも、そうあってくれればいいと思うのですが。
 私は、自分の娘が生まれたときに「宙」という名前をつけようとした(カミさんと意見が合わず諦めた)ことから、宙という娘が主人公のこの作品を読んだのですが、さまざまな家族の困難な設定と、美味しいものを食べて心を和ませる幸福感に、思っていたよりも深さを感じ満足しました。


町田そのこ 小学館 2022年6月1日発行
コメント
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