UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)准教授の著者が、信頼性の高い手法でなされた研究の査読論文に基づいて、各種の健康法などの生活習慣について病気になる確率を下げる効果があるかどうかを解説するという本。
メタボ健診による健康増進効果はゼロ、もしくはあったとしても極めて小さい(91ページ)、日本にいま存在している病院や医師のランキングで信頼できるものはない(175ページ)などと言い切っているのは清々しい。後者については、著者はアメリカで医師の治療成績を評価することを専門領域の1つとしているが、アメリカでは医師のデータベースがありさまざまな情報が開示されているので客観的な評価ができるが日本では医師の情報まで「個人情報」だとされて秘匿されているために客観的な評価ができないと指摘しています(174~183ページ)。裁判関係の情報についても顕著ですが、日本とアメリカの情報公開制度の違いは、本当に対照的というほど(天と地ほど)です。日本の制度にもいい点もあるのですが、時々立ち止まって考えた方がいいと思います。
1日1杯程度の少量のアルコールの場合、心筋梗塞や糖尿病のリスクが低いことと、乳がんや結核(そしてアルコールに関連した交通事故や外傷)のリスクが高いことが打ち消し合って、病気のリスクは変わらないとされています(102ページ)。要するに何の危険を想定するかによって評価は変わってくるということなんですね。タバコの場合は、「紙巻きタバコの受動喫煙がどれほど有害なのかに関しては十分すぎるエビデンスがある」(110ページ)、加熱式タバコの受動喫煙の健康への影響は、発売開始からまだ7年でほとんど研究が行われていない(研究の多くはタバコ会社が資金提供しているもの)ためまだあまりわかっていない(115~116ページ)とされています。その加熱式タバコは、世界最初に名古屋で2014年に発売され、アメリカでは2019年にようやく販売許可が出たのだそうです。企業に甘い日本の行政は、日本人を企業の健康実験と販売戦略のモルモットにしていると言えるかも知れませんね。
エビデンスによって最善と評価された治療が標準治療で、標準治療には保険がきく、保険がきかない自由治療は、まだ効果や副作用が科学的に検証されていないもので、効くかもしれないが効かないかもしれない治療法に過ぎない(130~134ページ)というのは、突き放した見方とも言えますが冷静な指摘と言えましょう。サプリメントの大多数は期待されたような効果を得られていない(167ページ)も、同じですね。効果が確認されたら医薬品等として販売するはずですしね。
もっとも、はじめにで、査読論文の根拠にこだわる姿勢を強調していますが、書かれていることすべてに査読論文の裏付けがあるということではなさそうです。たとえば、睡眠の質で量を補うことはできないとされている(23ページ)とかは裏付けとなる実験研究が引用されていませんし、それについての客観的で信頼できる実験が行われているということもなさそうです。また、タイトルの病気のリスクを「劇的に」下げる(カギ括弧内の「劇的に」が青色に着色されています)は、いかがなものかと思います。書かれていることの大半は病気になる確率を少し下げることができるということで、私の目にはこれをやれば病気のリスクを「劇的に」下げることができるというものは見当たりませんでしたが。
津川友介 集英社 2022年1月30日発行
メタボ健診による健康増進効果はゼロ、もしくはあったとしても極めて小さい(91ページ)、日本にいま存在している病院や医師のランキングで信頼できるものはない(175ページ)などと言い切っているのは清々しい。後者については、著者はアメリカで医師の治療成績を評価することを専門領域の1つとしているが、アメリカでは医師のデータベースがありさまざまな情報が開示されているので客観的な評価ができるが日本では医師の情報まで「個人情報」だとされて秘匿されているために客観的な評価ができないと指摘しています(174~183ページ)。裁判関係の情報についても顕著ですが、日本とアメリカの情報公開制度の違いは、本当に対照的というほど(天と地ほど)です。日本の制度にもいい点もあるのですが、時々立ち止まって考えた方がいいと思います。
1日1杯程度の少量のアルコールの場合、心筋梗塞や糖尿病のリスクが低いことと、乳がんや結核(そしてアルコールに関連した交通事故や外傷)のリスクが高いことが打ち消し合って、病気のリスクは変わらないとされています(102ページ)。要するに何の危険を想定するかによって評価は変わってくるということなんですね。タバコの場合は、「紙巻きタバコの受動喫煙がどれほど有害なのかに関しては十分すぎるエビデンスがある」(110ページ)、加熱式タバコの受動喫煙の健康への影響は、発売開始からまだ7年でほとんど研究が行われていない(研究の多くはタバコ会社が資金提供しているもの)ためまだあまりわかっていない(115~116ページ)とされています。その加熱式タバコは、世界最初に名古屋で2014年に発売され、アメリカでは2019年にようやく販売許可が出たのだそうです。企業に甘い日本の行政は、日本人を企業の健康実験と販売戦略のモルモットにしていると言えるかも知れませんね。
エビデンスによって最善と評価された治療が標準治療で、標準治療には保険がきく、保険がきかない自由治療は、まだ効果や副作用が科学的に検証されていないもので、効くかもしれないが効かないかもしれない治療法に過ぎない(130~134ページ)というのは、突き放した見方とも言えますが冷静な指摘と言えましょう。サプリメントの大多数は期待されたような効果を得られていない(167ページ)も、同じですね。効果が確認されたら医薬品等として販売するはずですしね。
もっとも、はじめにで、査読論文の根拠にこだわる姿勢を強調していますが、書かれていることすべてに査読論文の裏付けがあるということではなさそうです。たとえば、睡眠の質で量を補うことはできないとされている(23ページ)とかは裏付けとなる実験研究が引用されていませんし、それについての客観的で信頼できる実験が行われているということもなさそうです。また、タイトルの病気のリスクを「劇的に」下げる(カギ括弧内の「劇的に」が青色に着色されています)は、いかがなものかと思います。書かれていることの大半は病気になる確率を少し下げることができるということで、私の目にはこれをやれば病気のリスクを「劇的に」下げることができるというものは見当たりませんでしたが。
津川友介 集英社 2022年1月30日発行