伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

世界を支えるすごい数学 CGから気候変動まで

2023-01-24 21:39:59 | 自然科学・工学系
 数学が、さまざまな領域で、当初その理論や手法が導き出された動機や経緯からはかけ離れた分野で応用されていることを紹介した本。
 著者の思いは、原題にも表れている物理学者ユージーン・ウィグナーが1959年にニューヨーク大学で行った「自然科学における数学の不合理な有効性」という講演に触発されて、数学者が導き出した概念がその由来とはまったくかけ離れた分野で応用されている「不合理な有効性」の事例を紹介することにあります(13~15ページ)。しかし、翻訳書であるこの本は、タイトルでも表紙見返しでも、その数学概念や手法が生み出された経緯との関係は無視して、とにかく数学はさまざまな分野で役に立っている、日常生活に有用なあれもこれも数学のおかげだという印象を与えるようにされています。
 訳者あとがきで「平たい文章でひもといてくれている。高等数学の知識はいっさい前提としていない」としています(330ページ)。冗談じゃない。微分方程式や偏微分、フーリエ変換とかを「高等数学」とは受け止めないで、それくらい鼻歌まじりに読める人にはそうなのかもしれませんが、文系の身には最後まで読み通すのはかなりの苦行に思え、かなり久しぶりに、途中で放り出すことを何度も考えました。第5章で、私がこれまで何度読んでもわからないRSA暗号の説明があり、この機会に理解できるかとちょっと期待しましたが、やっぱり全然理解できませんでした。
 自動運転車の技術とそれを支える機械学習について説明しているところで、人間には正しく認識できるのにコンピュータはとてつもなく間違えるように意図的に手が加えられた画像「敵対的サンプル」という問題があり、80ページに掲載されているどう見ても猫の写真画像に数ピクセル加工しているだけの画像(人間がいくら睨んでも違いは認識できない)をコンピュータは「ワカモレ」(アボガドのディップ)だと確信する(それも加工前の猫の画像は88%の自信度で猫だと判断するのに、加工後の写真は99%ワカモレに間違いないと判断する)とされています。その応用によりテロリストが道路標識に小さなテープを貼るだけで「止まれ」の標識を最高時速100kmの標識とコンピュータが誤って認識するように仕向けられかねないというのです(83ページ)。私にとっては、この本でそこがいちばんの驚き・収穫でした。


原題:WHAT'S THE USE ? : The Unreasonable Effectiveness of Mathematics
イアン・スチュアート 訳:水谷淳
河出書房新社 2022年10月30日発行(原書は2021年)
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