アメリカの契約に関する法(判例と統一商事法典:UCCを中心とする法令)について、基本的な考え方や実務(裁判)上現実に問題となる論点をケースを挙げながら説明した本。
国際取引等には関与しないドメスティックな弁護士としては、アメリカ法自体を知っておくという必要性はあまりないのですが、日本とは異なる法の存在やそれを支える考え方を知り、考えることが、現実の事案で日本の法律の適用を考えるとき、特に条項を素直に解釈するのでは(自分の依頼者にとって)適切な結論を得られないときに何とか別のことを主張する根拠・材料がないかと思案するときに、参考になります。弁護士としては「引き出しが増える」という意味があるわけです。
アメリカでは、契約違反に対して履行の強制が原則とされている日本とは異なり、契約違反(債務不履行)に対しては損害賠償が原則で、アメリカ法の有名な特徴の「懲罰的損害賠償」も契約違反には適用されない(懲罰的損害賠償は不法行為に対して命じられる)ため、債務者は相手方に契約を履行した場合に見合う損害賠償をすれば履行しないことが選択でき、「契約を破る自由」が制度上認められているとされます。また、アメリカでは契約当事者の移転も原則は自由で、債権譲渡のみならず、債務者側も履行を他者にさせることが原則として自由(ただし履行されるまでは債務者が義務を免れるわけではない)と考えられているというのです。後者は、債務者が義務を免れないなら日本でも併存的債務引受はできるので同じじゃないかと見えますが、この理屈で不動産賃借人が転貸をするのも原則自由で、賃貸人の同意がない限り転貸はできないと定めても賃貸人は裁判所から転貸を拒否する合理的理由を求められるだろうとされています(344~345ページ)。当事者の自由を重視するアメリカ法は、弱肉強食の強者に有利な法制度だと考えられています(私はそう考えていました)が、債務引受/第三者による履行の自由を制約している日本法は「(債権者のために)一種の契約の絶対性を認めることであり、法が、債権者による債務者を支配する力をいっそう強めているのではないかという疑問が生じる」(345ページ注)と言われると、日本では賃貸借での賃貸人など強者の地位にある「債権者」の利益が偏重されているように思えます。ちょっと目からウロコの思いをしました。
アメリカ契約法の内容や特徴について学ぶというより、契約をめぐる法のあり方、考え方を学び、思考訓練をするのによい本だと思います。

樋口範雄 弘文堂 アメリカ法ベーシックス 2022年11月25日発行(初版は1994年3月30日)
国際取引等には関与しないドメスティックな弁護士としては、アメリカ法自体を知っておくという必要性はあまりないのですが、日本とは異なる法の存在やそれを支える考え方を知り、考えることが、現実の事案で日本の法律の適用を考えるとき、特に条項を素直に解釈するのでは(自分の依頼者にとって)適切な結論を得られないときに何とか別のことを主張する根拠・材料がないかと思案するときに、参考になります。弁護士としては「引き出しが増える」という意味があるわけです。
アメリカでは、契約違反に対して履行の強制が原則とされている日本とは異なり、契約違反(債務不履行)に対しては損害賠償が原則で、アメリカ法の有名な特徴の「懲罰的損害賠償」も契約違反には適用されない(懲罰的損害賠償は不法行為に対して命じられる)ため、債務者は相手方に契約を履行した場合に見合う損害賠償をすれば履行しないことが選択でき、「契約を破る自由」が制度上認められているとされます。また、アメリカでは契約当事者の移転も原則は自由で、債権譲渡のみならず、債務者側も履行を他者にさせることが原則として自由(ただし履行されるまでは債務者が義務を免れるわけではない)と考えられているというのです。後者は、債務者が義務を免れないなら日本でも併存的債務引受はできるので同じじゃないかと見えますが、この理屈で不動産賃借人が転貸をするのも原則自由で、賃貸人の同意がない限り転貸はできないと定めても賃貸人は裁判所から転貸を拒否する合理的理由を求められるだろうとされています(344~345ページ)。当事者の自由を重視するアメリカ法は、弱肉強食の強者に有利な法制度だと考えられています(私はそう考えていました)が、債務引受/第三者による履行の自由を制約している日本法は「(債権者のために)一種の契約の絶対性を認めることであり、法が、債権者による債務者を支配する力をいっそう強めているのではないかという疑問が生じる」(345ページ注)と言われると、日本では賃貸借での賃貸人など強者の地位にある「債権者」の利益が偏重されているように思えます。ちょっと目からウロコの思いをしました。
アメリカ契約法の内容や特徴について学ぶというより、契約をめぐる法のあり方、考え方を学び、思考訓練をするのによい本だと思います。

樋口範雄 弘文堂 アメリカ法ベーシックス 2022年11月25日発行(初版は1994年3月30日)