伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

科学のトリセツ

2022-06-18 21:42:08 | エッセイ
 毎日新聞の科学記者が、科学系の話題を題材に書き綴ったエッセイ。
 週刊誌(サンデー毎日)の連載コラムで、1つ900字内外(1行40字で19~23行)なので、軽く読める反面、物足りない/書き足りないきらいがあり、たいていは同じ話題で続けて2~4回書いています。連載ものとはいえ、次回に請うご期待みたいな読み切りでない書きぶりがある(146ページなど)のは、反則っぽく、コラムの長さの取り方に問題があるのかもと思ってしまいます。
 「水にインクを垂らすと、やがてその色が薄まって透明に戻るね。なぜだと思う?」と聞いた養老孟司に対し、ハキハキと「そういうものだと思っていました」と答えた女子学生。それを聞いた養老孟司が「目の前で起きていることに疑問を持たない姿勢、すごいよね」と嘆く図(75ページ)。いや、世の中にはいろんな人がいるんです。科学の問題に限った話じゃなく。質問に対して予想もしない答が返ってくるギャップ、私も日々疲れながら実感しています。
 「日本の研究者が地球から50億キロ先にある半径1.3キロの小天体を、市販の望遠鏡で見つけたという話題は、すごい成果を格安で上げちゃったという意味でビックリした」(59ページ)という振りで始まったコラム。格安がいくらかというと350万円というオチ。約100万円で市販されている口径28センチの天体望遠鏡2台を駆使してというのですが、「市販」「格安」という言葉から庶民はそういうことはおよそ想像しないと思います。通常は10億円かけるプロジェクトだからそれに比べれば遙かに格安ということなんですけど(60ページ)、こういうこと書かれると、住む世界が違うからねと思ってしまいます。


元村有希子 毎日新聞出版 2022年4月5日発行
「サンデー毎日」連載
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検察審査会 日本の刑事司法を変えるか

2022-06-17 21:49:24 | 人文・社会科学系
 検察官の不起訴処分について審査する6か月任期の11人の一般人からなる検察審査会について学者の立場から検討し解説した本。
 検察審査会は戦後すぐ検察官改革としてGHQが、アメリカ同様の大陪審(一般人からなる大陪審が起訴・不起訴を決定する)と検察官公選制(検察官を選挙で選ぶ)を提案したのに対し日本の官僚側が猛反対して、その妥協の産物として不起訴処分だけを審査ししかもその議決に拘束力がない検察審査会という世界に類を見ない日本独自の制度が創設されて発足したのだそうです(47~52ページ)。
 その検察審査会が、経済界の要求に沿った「司法制度改革」の機運と犯罪被害者の権利運動、さらには福岡高裁判事の妻のストーカー事件で検察官が被疑者の夫である裁判官に捜査情報を流したというスキャンダルの影響で、議決による強制起訴を認めるという法改正が成立して権限が強化され、これまでに10件(14人)の強制起訴がなされているのですが、有罪となったのは2件だけということが紹介されています。この本では、福島第一原発事故について東電元幹部3人が強制起訴された事件などを挙げて刑事事件として無罪になってもこの手続がなければ闇に葬られていたことが多数明らかになったことなど、強制起訴の意味はあったと評価しています。
 ただ、華々しく報道される強制起訴の事件の陰で、初期と比較すると、近年、検察審査会の職権による審査開始事件が減少し、検察審査会のもう一つの権限である検察に対する建議・勧告が激減し(87~91ページ)、検審バック(不起訴不相当、起訴相当)の件数・割合は大幅に減っている(94~101ページ)、つまり検察審査会は権限が強化されたものの現実には以前よりも慎重で消極的になってきているというのは気になります。著者らは、検察官が検審バックされた案件を起訴する(判断を変える)割合が高くなっているとか、さらには検察審査会が存在することでそれを考慮した検察官が起訴するケースが多くなっている(それを検証することはできないが)ことが検察審査会の重要な意義と評価していますが、起訴件数が増えればいいのかという疑問とともに、本来の仕事を地道に行う点でマイナス傾向なのを「プレゼンス」で正当化するという姿勢でいいのかなという思いを持ちました。


デイビッド・T・ジョンソン、平山真理、福来寛 岩波新書 2022年4月20日発行
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新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律

2022-06-16 23:39:04 | 実用書・ビジネス書
 大学生向けに、日々の生活や今後の人生で関わりを持ちそうな法律について取り上げて説明した本。
 さまざまな領域での法律問題を解説していて、法律に関心を持ってもらうという点で適切な本だと思います。
 他方で、一人で幅広い分野を書くことには限界があり、疑問に思う点や著者の好みによる偏りが出てくるのは、致し方ないのでしょう。私の専門分野の労働問題についていうと、「契約社員(有期雇用の労働者)」の説明で「期間の定めのある労働契約は、労働者と会社の合意により契約期間を定めたものであり、契約期間の満了によって労働契約は自動的に終了することとなります」(34ページ)と書いて、それ以上に契約更新に関する説明がなされていないというのは困りものです。民法の原則では有期契約は期間が満了したら終了するのはそのとおりなんですが、この本でも繰り返し書かれているように当事者対等を前提とする民法の原則は労働者を保護するために修正されており、そのために労働法があるのです。有期労働契約が繰り返し更新されるなどの事情により労働者が契約更新を期待することが合理的と言える場合には使用者の契約更新拒絶は制約されます。そこを説明しないで、読者の学生が、有期契約(契約社員)は契約期間が来たら打ち切りで文句も言えないんだと思い込んでしまうと困るのですが。
 また、著者の専門は消費者法ということで、入学しなかったときの前納学費の返還にも言及している(11ページ)というのに、借金に関する説明(59~61ページ)で、クレジットと住宅ローンの説明はしても奨学金に関してまったく触れないのはいかがなものでしょう。大学生が知っておきたいという観点では、住宅ローンより絶対身近な問題なんですが。保証人問題の説明でアパートの賃借(14~15ページ)、就職時の身元保証(33ページ)は説明しても、学生にとっては悩みのタネになる奨学金の親族保証や保証料問題にはまったく触れていません。日本学生支援機構に何か負い目でもあるのかと思ってしまいます。


細川幸一 慶應義塾大学出版会 2022年3月15日発行(初版は2016年4月)
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引力の欠落

2022-06-15 20:51:17 | 小説
 会社の目標や計画を粉飾して銀行から多額の融資を受け上場させて株価が高騰したところで売り抜けて経営者を大儲けさせて自分も多額の金を抜いて会社を渡り歩く行方馨をメインキャラクターとして、それに高い能力なり運を持つとされる多数のキャラクターを絡ませる小説。
 それぞれのキャラクターが自分語りするエピソードがあまり収斂せず、そのキャラクターが集まってもポーカーをするとかいう場面があるだけで、全体としてはキャラクターを作って集めてみましたというところで終わっている感があります。
 メインキャラの行方馨が、金儲けのために会社等を道具とする、労働者など好き放題に首を切るコストカッターというだけでも、労働者側弁護士の私にとってはとても嫌なヤツですし、傲慢でジコチュウなので、まったく共感できず、他のキャラクターはあまり踏み込まれず並べられているだけに近いので、興味を持てず、私は入り込めませんでした。


上田岳弘 株式会社KADOKAWA 2022年3月29日発行
「小説野性時代」連載
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あちらにいる鬼

2022-06-14 21:11:29 | 小説
 作者が自分の父井上光晴(白木篤郎)と瀬戸内晴美・寂聴(長内みはる・寂光)の関係、それを見つめる母(笙子)を描いた小説。
 帯にも「小説家の父、美しい母、そして瀬戸内寂聴をモデルに、〈書くこと〉と情愛によって貫かれた三人の〈特別な関係〉を長女である著者が描き切る、正真正銘の問題作」とうたわれ、実話だというのが売りになっています。両親とも没後、瀬戸内寂聴の承諾を得て、インタビューの上で書いたということですが、こういうことまで書いてしまえるというのが、作家なんですね。こうやって書くのも愛と言えるのでしょう。
 瀬戸内寂聴は、何でも書いていいと言って話したが書かれなかったことも少なくないと話しています(百歳 いつまでも書いていたい 瀬戸内寂聴という生き方)が、作者が瀬戸内寂聴から聞いた中でも井上光晴がソ連の作家同盟の招待で訪ソしたときに口説き落とした女が来日してきたのを瀬戸内晴美を連れて見送りに行って渡されたプレゼントが使用済みのズロースだったというエピソード(113~119ページ)を書いているのがすごい。父親にこんなに厳しくなれるのかと思いました。もっとも、その後ももっと酷い話が出てくるので、作者からしたら、実態を知ればその程度は厳しいうちに入らないと言いたいかもしれませんが。


井上荒野 朝日新聞出版 2019年2月28日発行
「小説トリッパー」連載
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百歳 いつまでも書いていたい 小説家・瀬戸内寂聴の生きかた

2022-06-13 21:51:24 | エッセイ
 2021年11月9日に99歳で死去した瀬戸内寂聴のラジオ番組での語り・対談を出版した本。本来は2022年5月15日の100歳の誕生日に合わせて刊行する予定だったと「はじめに」に書かれているのがせつない。
 1998年に「源氏物語」の現代語訳を出版した話が最初になされ、すでに与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子の現代語訳があるのにさらに現代語訳をしたのは、「戦後五十年が経ちまして、国語力が低下したのでしょうか、みなさん、それらの訳が読み切れないと言っております」(12ページ)ということからなんだそうです。その優しくした瀬戸内源氏10巻本も手に余り、私は、その前に書かれた「女人源氏物語」しか読めていませんが…
 井上光晴と妻と瀬戸内寂聴の三角関係を書いた「あちらにいる鬼」(井上荒野)は、「なんでも話してあげるから」と言って、だいぶ話してあげたのを書いたのだそうです(163~164ページ)。「モデルにされたわたしがほめるんだから、この小説はいい小説ですよ」って。「あれは絶対に賞を取りますよ」(164ページ)というのは外れたようですが。でも、まぁそう言われると読んでみようかと思います。映画化もされるようですしね。


瀬戸内寂聴 NHK出版新書 2022年3月10日発行 
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カラー版 春画四十八手

2022-06-12 21:27:50 | 趣味の本・暇つぶし本
 菱川師宣の「表四十八手 恋のむつごと四十八手」を紹介し、それに合わせてその後の春画を紹介した本。
 元来相撲の決まり手であった四十八手が性的な意味を持つようになったのは1679年に刊行された菱川師宣の「表四十八手 恋のむつごと四十八手」と翌年の続刊「裏四十八手」からなんだそうです(3~5ページ)。オリジナルでは、性行為の体位だけじゃなくて、シチュエーションを挙げたものが多く、第1図は「逢夜盃」で遊廓で初顔合わせした遊女との恋の始まり、第2図は「思比」で両思いの相手と初めて致す前のときめき(手を握ってる)、第3図は「明別」で一夜をともにした後夜明けに別れを惜しんで接吻する姿、第4図が「ぬれなづけ」で思い人と致した後の恥じらう姿(…「ぬれ」の意味は…)と続き、第5図の「四手」(本手取り:いわゆる正常位、男性上位)で初めて体位が登場するとのことです(10~24ページ)。
 併せて紹介されている後の春画に比べて「恋のむつごと四十八手」は絵があっさりしていてほのぼの感が強い。より細密でリアルな後の春画も併せ、江戸時代の庶民の文化・風俗のおおらかさを感じます。


車浮代 光文社知恵の森文庫 2018年9月20日発行
「日刊ゲンダイ」連載
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春画

2022-06-11 22:43:01 | 人文・社会科学系
 江戸時代以前の肉筆春画から江戸時代の浮世絵春画に至るまでの代表的な作品をカラー図版で掲載し紹介した本。
 男女の(男男、女女もありますが)交合の様子を、特別な場面としてよりも、日常的に、ところ構わずという風情で描き、仲のいい庶民の夫婦、新婚夫婦のみならず中年の夫婦や老年の夫婦の性行為がしばしば描かれているのが日本の浮世絵春画の特徴なんだそうです(58~68ページ)。江戸時代の記録からは、女性も春画を楽しみ、春画を恥ずかしいものとしてではなく宝物として堂々と扱っていたとわかるというのです(126~131ページ、252~254ページ)。なんだか微笑ましいですね。図版を見ても、「ひわい」ではありますが、「いやらしい」という印象よりは、微笑ましく思えるものが多いと感じますし。
 江戸時代の享保の改革、寛政の改革、天保の改革での好色本の発禁令では、春画本は取り締まられても肉筆の春画は取締対象ではなかったとか(46ページ)。大衆向けは禁止でも大金持ちしか買えないものはOKなのか、「芸術品」は別扱いなのか…
 歌川国貞「吾妻源氏」上巻裏扉絵の陰毛(227~229ページ:閲覧注意)の例で、密集した箇所では1ミリあたり3本は彫られていると紹介されています。技術レベルにも目を見張ります。


早川聞多 角川ソフィア文庫 2019年1月25日発行
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「隠しアイテム」で読み解く春画入門

2022-06-10 21:27:36 | 人文・社会科学系
 江戸時代の春画の中に描き込まれている道具や食べ物、動物、着物等の文様などから、描かれているシチュエーションや絵師の狙いを解説し、併せて江戸時代の生活・風俗等を紹介する本。
 もっとも、春画そのものに描き込まれた物等の解説は、「はじめに」で取り上げているものを除けば詳細ではなく、春画を題材に風俗、世相を紹介するという趣が強くなっています。
 江戸時代の婦女には「四徳」:貞操を守る「徳」、口数を控える「言」、裁縫上手の「功」、容姿を整える「容」が求められていたけれども、著者は「いつの時代の女性も、四徳のすべてを身につけている者など、ほとんどいないでしょう。一つぐらい欠けていたほうが、女性としては魅力的です」と述べています(87ページ)。春画の世界では「徳」の欠ける場面が次々出てきていますが…
 「江戸中期には煙草を吸わない者は百人のうちに二、三人ほどしかいなかったそうです」(88ページ)、「江戸時代は煙草の吸引は無害とされ、子供も煙草を好んで吸ったようです」(91ページ)っていうのはビックリでした。
 男女の(男男もありますが)交合がおおらかに微笑ましく描かれていますが、大手出版社がこれだけモロの描写をしたものを販売しているところ、時代は変わったなと思います(もちろん、ネットではそれこそ絵レベルじゃなくてモロの動画が流れているのですから問題にもならないと思うのですが)。その昔、40年くらい前ですが、バイロス画集の出版に関連して生田耕作先生が京都大学を去られたことを思い起こすと隔世の感というか、胸にさまざまなものが去来します。


鈴木堅弘 集英社インターナショナル新書 2022年2月12日発行
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ヒポクラテスの悔恨

2022-06-09 21:58:15 | 小説
 テレビ番組「医学の窓」に呼ばれて「死体の声を聞こうとしない警官や医者が多過ぎる」と発言した光崎に対し、テレビ局のサイトに「親愛なる光崎教授殿。インタビューではずいぶん尊大なことを言っておられたが、ではあなたの死体の声を聞く耳とやらを試させてもらおう。これからわたしは一人だけ人を殺す。絶対に自然死にしか見えないかたちで。だが死体は殺されたと訴えるだろう。その声を聞けるものなら聞いてみるがいい」という書き込みがなされ、埼玉県警は疑わしくもない死体を次々と法医学教室に持ち込んで、法医学教室は多忙を極め、予算は逼迫しという展開の「ヒポクラテスの誓い」シリーズ第4作。
 「ヒポクラテスの試練」(シリーズ第3作)で初めて長編にしたかと思うと、今作品は再び「ヒポクラテスの憂鬱」(第2作)と同様の最初に課題を示した短辺連作の線、それも第2作とほぼ同様のコンセプトに戻しています。全体を通したコンセプトの違いは、この作品では、それを光崎の過去と結びつけ、光崎もそれを意識しているというところです。
 解剖をめぐる攻防はだいぶパターン化してきた感じですが、解剖による謎解き(死因解明)はまだネタ切れにならないようです。どこまで続けられるか、お手並み拝見というところでしょうか。


中山七里 祥伝社 2021年5月20日発行
「小説NON」連載
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