本日読み終わった本は「《受胎告知》 絵画で見るマリア信仰」(高階秀爾、PHP新書)。一見ごく優しい入門書である。しかし私の知らなかったこと、知っていても関連付けが出来ていなかったこと、それなりにあった。
私の西洋の絵画についての知識は、素人があちこちの書籍に目をとおして得た知識であるので、体系だったものではないことがすぐにばれてしまう。この著者のような方の著作を読むと、自分の知識が如何に中途半端なものか、理解できる。そういった意味では貴重な作者である。
特に最後の3つの節、バロック以降の叙述は私の頭の整理に役立った。
「18世紀にも優れた《受胎告知》が描かれなかったわけではないが‥キリスト教絵画はゴシック時代以来の勢いを失っていく。17世紀中ごろから静物画や風景画、肖像画などが‥大きな位置を占めるようになるにつれ、やがて神秘や奇跡といった表現は後退せざるをえなくなった‥。(力を強めた)市民たちは荘重でいかめしい表現よりも感覚的で軽やかな作風を好んだ‥。」
「その中にあって、1848年にラファエル前派は‥初期ネルさん巣美術を模範とする主張を唱えた。ロセッティはあえて《受胎告知》を描いた。‥(白いベッドから)たったいまおき上がったばかりのようなマリアが表現されている。大天使ガブリエルが唐突にやって来て、驚いて目覚めたニュアンスをごく日常的に描きだしている。マリアも大天使も一般人のように描かれている。‥バーン=ジョーンズも《受胎告知》を描いている。」
「1833年から40年頃にかけて、イギリスではオックスフォード運動という新しい宗教の動向があった。当時の自由主義的な風潮に異を唱え、教会の歴史的権威をあらためて見直し、典礼を重んじようとする復古運動である。ラファエル前派が《受胎告知》をはじめ聖書を主題とする絵画を多く制作したのは、このオックスフォード運動が背景にあった。また20世紀になるとフランスで宗教芸術再興運動が起きる。その中心的存在は、フランスの‥モーリス・ドニ(1870-1943)である。‥ドニの《受胎告知》は、清明な色彩による落ち着いた平面構成で穏やかな一作である。」
最後の節で、20世紀の作品はウォーホルなど《受胎告知》には宗教的な意味は認められない。ゲルハルト・リヒターなども造形的探求の手がかりとして引用しているに過ぎない、と記載している。