Sightsong

自縄自縛日記

大井浩一『大岡信』

2021-07-25 13:52:46 | 思想・文学

大井浩一『大岡信』(岩波新書、2021年)。

90年代の終わりころに、大岡信さんの講演を聴いたことがある。地唄舞の動きがタテの跳躍ではなくヨコの旋回を特徴としていることを、自ら動いてみせて示しつつ、その感情表現について説いたものだった。『折々のうた』のひとくらいにしか認識していなかったこともあり、なんて幅広く愉しそうに文化をみているのかと驚いた。

この評伝からも、氏が詩だけでなく音楽や演劇や現代アートなど、じつに幅広い批評を展開してきたことがよくわかる。そのスタンスは全否定ではなく全肯定、観念よりも情緒や人間のつながり、流行や先端よりも生活、独善ではなく開かれたもの、他人を自己表現の手段とするのではなく社交。もちろんそれは同時代の現代詩や現代思想への批判でもあった。

連歌の試みもそのように柔らかく開かれた思想のもとにあったのだ、とする指摘にはハッとさせられる。