Sightsong

自縄自縛日記

国立近代美術館とワコウ・ワークス・オブ・アートのゲルハルト・リヒター展

2022-06-11 15:43:37 | アート・映画

国立近代美術館のゲルハルト・リヒター展。

90年代にはじめてリヒターの重ね塗りやナイフにより削られたマルチレイヤーの作品を観てからは、ロンドンでもデュッセルドルフでもサンフランシスコでもリヒター作品を見つけたら眼が悦んでいたし、ニューヨークのチェルシーでスタンリー・カッセルマンという画家によるフェイクを目にして不快に思うくらいのファンではあった。

Inhaling Richter - How Stanley Casselmann Got Famous to Fake a Richter for Jerry Saltz - TheArtGorgeous

今回もホロコーストをテーマにした《ビルケナウ》などのマルチレイヤー画、写真の上に野蛮にも思えるペイントを施した作品、どれだけ近づいて凝視してもなにも掴めない細いストライプ画など、これまで驚かされてきた氏の作品群が展示されている。だが不思議に何も気持ちが盛り上がらないどころか醒めてくる。

8枚のガラスを並べた作品《8 Glass Panels》には周囲の人や画が反射し、何重ものずれたイメージが現れている。リヒターの異色作くらいに思っていたのだけれど、これもやはりリヒターの本質的な作品ではないのかなと思えた。

つまり、今回多数のリヒターの作品を同時に脳に入れることによって、興奮ではなく、認識と認識の隙間に誘い込まれたのかな、と。ガラス作品はそのことに気付かせてくれたのかな、と。

六本木のワコウ・ワークス・オブ・アートはリヒターの新たなスタイルを紹介してきてくれたところで、今回ここでもリヒターのドローイング展が開かれている。一見なんということもないのだけれども、そのことが次第に驚きに化けてきた。塵芥が脳脊髄液に流されて紙の上に付着したようだ。これらは認識の隙間というよりも認識の徹底的な表面。やはり恐るべき人。


《8 Glass Panels》


《Joshua》


Drawing

●参照
ゲルハルト・リヒターの「Strip」@ワコウ・ワークス・オブ・アート(2016年)
ゲルハルト・リヒター『アブダラ』(2011年)
ゲルハルト・リヒター『New Overpainted Photographs』(2010年)
テート・モダンとソフィアのゲルハルト・リヒター(2010年)