シネマ・チュプキ・タバタにて、岡田一男『沖縄久高島のイラブー』(2024年)。
沖縄開闢神話の地・久高島では、住民を神女として相互承認させるためにイザイホーという祭祀が12年にいちど行われていた。だが人口減少もあり、最後に行われたのは1978年のこと。その貴重な記録映画が『沖縄久高島のイザイホー』(岡田一男監督)だが、そのときイラブー(エラブウミヘビ)の燻製作りも撮影されていた。そして21世紀になり、途絶えていたイラブーの捕獲と燻製が復活してきた。映画はかつてのフィルムと最近の様子を対照させて示している。
20年近く前、僕が久高島を訪れた日がちょうどイラブー獲りの復活というタイミングだった。もちろん島内でイラブーを食べられる店などなかったし、那覇の市場にぶらさがっている乾物はほかの場所から運ばれてきたものだった。映画によれば、伝統が断絶している間に外の漁民が近くにイラブーを獲りにきたり、質の悪い燻製を作ったりといった動きがあったらしい。おもしろいのは、復活にあたり製造技術を学ぶため鹿児島や静岡やモルディブに行ったということ。
伝統といってもずっと変わらないものがあるわけではない。宮内泰介・藤林泰『かつお節と日本人』によれば、かつお節はかならずしも日本料理の伝統というわけではなかった。状況が大きく変わったのは戦争。栄養と携行性にすぐれたかつお節の生産は国策となり、インドネシアや南洋群島などへの「南進」が繰り広げられた。それを担った働き手の多くは沖縄の漁民だった。だから、映画でも「新しいやり方でよい」といった発言があるけれど、それも当然か。それではイラブーの燻製技術に沖縄のかつお節製造がどのように影響したのか、そのあたりは映画ではわからずなお興味津々。
ところでモルディブにはかつお節のようなモルディブ・フィッシュというものがあり(『美味しんぼ』で有名になった)、スリランカでよく使われている。僕も20世紀の終わりころにスリランカを旅したとき、市場でモルディブ・フィッシュを買って帰ってきたのだけど、どうも出汁を取るのではなく砕いて入れるもののようで、うまく使えなかった記憶がある。久高島の人はモルディブでどのような知見を得たのだろう、これもまた興味津々。
さてどこに行けばイラブー料理を食べることができるのだろう。