空の驛舎 「どこかの通りを突っ走って」（作／深津篤史 演出／中村賢司）（於・ウイングフィールド） 80点

深津篤史のホンは暗くて難解という定評があり、悩んだが、空の驛舎の劇でもあり敢えて観劇す。この劇団の演出力、俳優の力量が並大抵でなく、見ずにはいられないのだ。気づいたら背もたれのない席で90分過ごす。

全編、死の香りが漂っています。自殺した一周忌に集まる男女たち。そこに阪神大震災で別居中の女房をなくした男も酔いつぶれて寝ている。そしてレズの女たちの血をたぎる静かな諍い。

全編、大阪北港のヘドロ混じりの悪臭が漂うイメージが、人間のどろどろとした関係と、明日をも見ることのできない絶望に打ちひしがれた叫びとが遠吠えとなって、港の空高く飛んでゆく、、。

再生の話ではないと思う。夢で地震死した女房からもあなたが大嫌いでしたと告げられる夫の心情はいかに。この舞台を見て、明日へと旅立とうという気にはなれないほど絶望の淵が重く、沈殿している。

深津にとっては、明日とは命をひさぎ、人間関係を押しつぶす延長ではないのか、そんな感覚がある。そんな命の緊張感を観客は90分ずっと持続するのだ。

まあ、たまにはこういう暗い劇もいいなあと思う。暗さの中からは人間は滅びることはない。太宰治が「右大臣実朝」で言っている。人間は、滅びることなく生を全うすることはできるのだ、、。