5編の短編集。冒頭の表題作が秀逸で思いが残ってしまった。人は死んでもなおかつ死後どの墓に入るのかということがそれほど気になるものなのだろうか。でも最近この手の話、悩みはよく聞く。みんなお気楽なんだねと僕は思うが、実際姓が変わってしまう女性は他人事ではないのだろう。でもミステリーとしてはとても面白い。
次の「目撃者はいなかった」は誰にもひょっとしたらやってしまう蓋然性の高い事件なのかもしれない。そ . . . 本文を読む
舞台で映画館を題材にするということ自体が稀有であるのに、この演劇は若い映写技師が切り取った6コマのフィルムに、数十年の日本とコリアとの関係、人生とオーバーラップさせるアナログのフィルムに人間の生き方の情念までを見出し、さらに映画館という人生を映し出してきた空間に市井の人間の苦しみ、喜び、明暗までをも表現した壮大な演劇であります。
もう立派過ぎて何も言えないほどただおののいております。すごい演劇を . . . 本文を読む
前作が力作ぞろいのコント集で大いに注目させた実力劇団の公演。今回はガラッと変わってふんわりと人の心の隙間を和やかに温めてくれる劇である。ホントに大好きな劇団である。
いつもクリスマスが近づいて、サンタさんのことを考えることなんて大人になってもう云十年を過ごしている吾輩には考えられないことだが、この劇はまさにそのことを突き詰める。サンタさんが本当に存在しているのだ!
本当のサンタさんがいるなんて . . . 本文を読む
母の死を、死後3年たった回顧展で一同が巡り合う家族の話です。
何だか1編の小説を読んだ感が強いですね。夫から見た妻の、長男から見た、次男から見た母親の思いはそれぞれ当然のことながら違っている。
死んだ後に発見されるおもがけない事実もそれもまたその人の真実なのだ。
夫は妻の不貞まで知ることになるが、それほど懊悩しない。ある程度気づいていたのだろうか、、。この夫が一番悩んではいないことに我々は気 . . . 本文を読む
この映画、実に面白く楽しく、しかし男である吾輩にはアッパーカットにも近いブローを胸にずしんと感じながら見終えました映画でもあります。確かにこれは男どもが気付かぬ間に(というか、気づかぬふりをして)じわじわと女たちがしっかりと力をつけて反撃に応じたレジスタンスでありますネ。おお恐い!
こんなに便利な世の中を駆け抜け、教育も男と同様に身をつけた女性たちにも、明治以降男どもにあしざまに押しつけられた屈 . . . 本文を読む
いやあ、名探偵・座間味は何と10年ぶりに読みました。考えたらこの座間味君の名推理で石持ファンになったんだっけ。それがもう一度楽しめる。ミステリーファンでこんな至福があろうか、、。
そしておなじみ安楽チェア探偵ものである。しかも、新宿の紀伊国屋で待ち合わせをし、近くのグルメ個室で、名料理の舌鼓をしながら、卑近な事件をたどり打っちゃりの推理をしてしまう座間味君。ホンと楽しかったです。
7話がとても . . . 本文を読む
2時間半の長尺。これは学生演劇にとってはかなりの試練のはず。そして観客にとっても、、。
でもこの難役を十分彼らはこなした。結構全編グダグダ劇なので、脱線すると計り知れない試練が待っているはずなのだ。でも彼らはこの2時間半、むしろ余裕でやってのけたのだなあ、、。凄いことだと思う。
セリフのトチリはなく、むしろ余裕のアドリブ全開風。これは彼らの、どこからそうさせるのか。そのふてぶてしさといい、もの . . . 本文を読む
題名からは窺い知れない家族の漂流・彷徨を描いた秀作です。
急流の川下り、そして広い海に浮かぶ一隻の船。そこには落ち着ける時間もない。常に何かと闘い、しかし何故か家族という時間を共有できる空間は存在する。
人生なんですな。それをコミカルに、ブラックに描くことにより、より卑近な印象を観客に植え付ける。
観客は自分の生きてきたしがらみ、思いをこの作品に託し、自分の人生の断片をこの作品を通して走馬灯 . . . 本文を読む
震災に遭った女性の物語だと思えるが、詩的で重層的な演出方法が一つの話にとどまらせない溢れる情感を伴い、果ては生と死を渡り継ぐ長いモノローグとなり、シンフォニーを奏でてゆく、、。
そんな実に優美で脳内にまでその音楽が聞こえそうな詩情たっぷりの演劇でした。
この演劇にとってはあのフジワラビルの美術館の雰囲気とともに、そこに佇む観客さえ、一つの劇の重要な存在となり、すなわち舞台の大道具となる。演劇を . . . 本文を読む
映画で見ていて筋書きは知ってはいたが、また同じところで泣かされてしまった。この前半部分と後半部分のガラッと展開が変わるところがこの劇の持ち分であり、ミソだ。
そうすると、あの何故か親しげなオカマがなぜこの家に始終来ているかも分かって来るところも切なくなって来る。
劇は結構100分近い長丁場なので、若い役者さんたちにはセリフの量といい、内面的な明暗の切り替えも演技しなければならず、大変だったよう . . . 本文を読む
評判のアニメを満席の劇場で見る。淡々とした女性の半世紀。平和な日常が描かれる。そこに忍び寄る戦争という影が静かに彼女を怯えさせてゆく。そして実家の原子爆弾による壊滅。それでも彼女は静かにその運命をかみしめ生きてゆくのだった。
この話はすず固有のものではなく、当時の日本人みんなが過ごさざるを得なかった昭和の出来事である。それでも家族は暖かく、人々は懸命に毎日を生きている。
あまりに普通の話なので . . . 本文を読む
何気ない日常と見えなくもない女性だけが住んでいるある家の一日。洗濯物を取り込むシーンから始まる.。それはどこにでもある光景だ。そして吹奏楽の話。聖者の行進。聖者とは誰だ。奥歯が氷を噛んだとたん抜けてしまった女性。
しかし、観客はそれらがこの世の果てのような地獄空間の始まりであったことにじんわりと気づいてゆく、。
若い男がいないのだという。女性たちは子供を産むことが出来なくなっている。放射能の濃 . . . 本文を読む
昨年通った美術史美術館の裏側が見られるというので早速有楽町で見ました。美術館を経営するまさに一企業のごとく予算攻防経営戦略。と一転して、お客様係という最下層の非人間的な対応が取り上げられる。
この映画を見て即、美術史美術館の美術品を見たことにはならないのだ。それほど絵画等が紹介されるわけではない。視点はこの美術館を支える、取り巻く環境とその中身である。
映像が緻密だ。なのに、もったいないことに . . . 本文を読む
だいたいみんな将棋師聖の若死を知ったうえでこの映画を見る。だから、その短い人生途上で、凝縮した彼の青春を見てみたいという思いでこの映画を見る。それは自分の人生にいかに投影されるのか気にかけながら辿る道程でもあるのだ。
彼の病気とは子供時代からのネフローゼだ。だから体も見事にむくんでいる。そんな病的でいながらすぐ切れる聖を松山ケンイチはそつなく演じている。
対する永遠のライバル羽生に東出昌大が目 . . . 本文を読む