先週毒書会を予定通り敢行してきたので簡単な報告をば。
お題は元々「ファスト教養」だったが、私は「ファスト教養」を求める傾向についての現象学的考察、相方は「教養」自体についての考察という具合で対照的なのがおもしろかった。
具体的に言うと、私はブログでも書いた『人間の建設』や『映画を早送りで観る人たち』、『知識社会学と思想史』、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』を準備していたのに対し、木場氏は中村高康『暴走する能力主義ー教育と現代社会の病理』、竹内洋『教養主義の没落』、パスカル『パンセ』、ブルデュー『ディスタンクシオン』などを読みこんできたのである。
さて、ここで私が「教養」そのもののカテゴリーを掘り下げなかった理由をもう一度確認すると、「つまるところ文化人のポジショントークの域を出ないのではないか?」という懐疑があることは書いた(だから、「古典的文学作品の理解は『教養』なのに、ド・モルガンの定理は『教養』でないとしたら、それはいかなる論理によって正当化されうるのか?」といった話をしたわけだ)。
これに対する相方の答えは、「教養とは個人的な探究心の領域に限定される」という答えだった。要するに彼の中で「教養」は「求道」に近い。他者の関係しない自己探求の営みというわけだ。そして他者を意識した「教養」というのは、むしろ「啓蒙」と呼ぶべきではないか、とのこと。
というのも、他者が介在した瞬間に、より有用なもの、より説得力のあるものが重要だ、という具合に功利主義的にならざるをえない。それは結局「確実に役に立つもの>役に立つかどうか見通せないもの」という志向性となり、それは「工学的な知>理学的な知」ともなって、結局「ファスト教養」的な発想に繋がっていく、という話だ。
まあそこで「公教育」と「私教育」に分けて、国税を投下する前者は効率性を求められざるをえず、効率性に縛られないものは後者で学べばよい、的な話もあってそこまで截然と分けられるんかいなという疑問と、「公教育」は実用性重視でよいと二項図式化した場合に、将来性が不透明な研究がパージされすぐに効用がある研究にばかりフォーカスした結果、かえって知のブレイクスルーは起きにくくなるのではないか(日本という単位に限定すれば、他国に置き去りにされるのではないか)、という懸念はあるので全面的に受け入れるつもりはないが、一つの発想法としては興味深いものとして受け取った。
その他様々な話題を話したが、ここで縷々述べる時間はないので次回の毒書会に関連する話に絞ると、相方の持ってきた書籍の中に『ピダハン』があり、これを元に人類学や、あるいは「幸福とは何か?」を議論してみようぜという話になっている。
ピダハンの世界が独特で近代社会と大きく異なっていることはそれなりに知られているが、それはある種の閉鎖性によって成り立っている。だからピダハンの幸福度について考える時、ブータンの高い幸福度と、それが携帯電話などで外界と繋がったことで低下したという話を知っていると、相対的剥奪感などの話も相まって、「知る」ということが必ずしも幸福と比例しないことを再認識できるだろう(念のため言っておくと、私が知識を求めるのは「幸福になるため」ではない。たとえ知ることの先に絶望や諦観が待っていたとしても、私はそれを求めるのである。もしそうでなければ、畢竟「後ろ向きな真実より前向きな嘘」を求めることとなり、最終的には「複雑怪奇な現実を知って煩悶したり葛藤するより、わかりやすく加工されノイズが排除されたものを快適に摂取し続けたい」という傾向に落ち着くしかない。ならば結局、「マトリックス的な繭の中で生きる方が、複雑な現実の中で試行錯誤するより幸せじゃね?」という見解と何が違うのか、という話になる→AIとbotの問題、ノイズ排除と陰謀論、ゲイテッドコミュニティの正当化etc...)。
で、人類学ということから次の毒書会は『野生の思考』になりやした。世界観・コスモロジーという点では以前『ホモ・ルーデンス』でお世話になったホイジンガーZ先生の「遊び」などとも連なるものがある。もしくは、私が日本中世に興味を持っている理由として、その社会の特性や人々の世界観が今日とあまりに違いすぎて、逆に今日の主権国家体制・領域国家・法の一円的支配・暴力の独占といった自明視しがちな思考の枠組みを相対化・客体化する手助けとなるという話をしたことがあるが、こういった視点とも近い理由と言えよう。
この話は極めて迂遠に思われるかもしれないが、実のところ「ファスト教養」で取り上げた「スローライフ運動」のようなものとも無関係ではない(その意味では人類学というより、グレーバーの『ブルシット・ジョブ』なんかにもつながるかもしれないね)。まあこれまで培ってきたものとどう切り結んでいくのかね?と楽しみにしつつ、とりあえず本を買うこととしたい。
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