キャラクター設定とのギャップがおもしろい白銀ノエル、ロールプレイの天才でびでび・でびる、極めて「素」に近く見える夏色まつりと三者三様のVtuberを紹介してきた。それに引き続き、今回は個人勢Vtuber「犬山たまき」について書いてみたいと思う(「犬山たまきはのりプロ所属では?」と疑問に思う人がいるかもしれないが、犬山たまきが自身を個人勢と定義しているためそれに従う)。
犬山たまきという存在を語る上で、「2020年にチャンネル登録者数がおよそ20万から52万まで増えた」と書けば、そのインパクトの大きさはある程度伝わるものと思う(登録者数などの数字関連は、より正確なものに変更済。以下同じ)。なるほどコロナ禍による「巣ごもり需要」こそあったものの、+32万人で元の登録者数から2倍以上になった、というのは管見の限りホロライブメンバーくらいしか知らない(参考までに、にじさんじの代表的Vtuberである月ノ美兎でも46万→66万という推移である)。
では犬山たまきもホロライブの面々と同じではないかと思われるかもしれないが、その要因には違いがあると考えられる。例えば犬山たまきと比較的近い登録者数だった紫咲シオンで言えば、2020年は約11万人でスタートし、3月20日時点で17万を超え(この動画で言及あり)、2020年最終で約57万人となっている。つまり増加数・率的に犬山たまきより多いわけだが、先の動画で見れるチャット欄やコメント欄からも明らかなように、海外の視聴者がかなり多いことがうかがえる(アナリティクスの詳細を見れるわけではないので、あくまで大よその印象ではあるが)。
とすると、ホロライブの場合は桐生ココの参入もあって海外勢からの注目にブーストがかかり、世界的な巣ごもり需要の中で大きく躍進したと予測されるが、犬山たまきはそのチャット欄やコメント欄を見ても海外勢はほぼ皆無の状態だし、彼自身がそう話してもいる(その意味ではにじさんじメンバーに近い状況と言える)。では一体何が、犬山たまきチャンネルの躍進を支えたのだろうか?
そう考えた時に、まず第一に指摘できるのは多くのVtuberとの対談であろう(例えばホロライブで言うと、直近の5期生を除けば、ときのそら、百鬼あやめの二人だけという具合に、対談してないメンバーを探す方が難しい)。犬山たまきが極めて入念な準備をして対談に望んでいることは随所で対談相手などから言及されており、丁寧な挨拶文・リマインド・放送開始前に対面して本番で読むマシュマロを全て確認してもらう・終了後には丁寧なお礼文を送る・・・といったことをしっかりと行っているようだ。犬山たまきの対談は、センシティブな内容(質問)に踏み込んでいるケースも少なくないし、それに付随する「イジり」も行われているが、それはあくまで事前にラインを慎重に検討しているからこそ可能だ、ということである(これが前回述べた「イジり芸と信頼関係」の話につながる)。
それを一度強く実感したのは、ホロライブのさくらみことの対談で、彼女がエロゲーをプレイするということで色々なレーベルやタイトルこそ話題に上がったのだけれども、一方で猥談・下ネタにはそこから全く広がることはなかった。今でこそ抑えめにしているが、犬山たまきはそもそも「手〇きカラオケ」や「おしがまテトリス」のように下ネタ系の企画を数多く手掛けてきた(デビュー初期で名前が知られていないがゆえに過激なイベントで話題性を作る、という狙いだろう)。しかも犬山たまき自身さくらみこの挙げるレーベルやタイトルを知ってはおり、踏み込もうと思えばいくらでも踏み込めたはずだった(それこそ鈴鹿詩子との対談などはわかりやすい)。にもかかわらず、まるでそんな話題は存在すらしえないとばかりに下ネタの話が出なかったのは、思うにさくらみこが事前準備段階でそれを望まなかったからだろう。これは状況証拠による推測だが、さくらみこは精神の波が激しく、そもそもあまりコミュニケーションが得意でないのと(だから陰キャポジションに配置される)、ある程度関係性が築けた相手であっても、本当にこの関係性でいいのか不安になるというケースが見られる(兎田ぺこらの呼び方がやたら変わったり、その頃に宝鐘マリンにぺこらに嫌われてないか相談したのはその表れだろう)。ゆえに、その時初絡みだった犬山たまきとの対談を大過なく終えるためにもその手の話は慎重に回避されたのではないかと思えるのである。
閑話休題。
以上のようなことを書くと、ごくごく当然の行為であるように思う人もいるだろうが、それはおそらく二つの意味で正しくない。その一つは、そもそもVtuber業界というものがまだ全然成熟しておらず、また個人の資質に依存するところが大きいため、ビジネス上ではごくごく当然であるような振る舞いができていない人も多数いるらしいということ(だからこそ犬山たまきの丁寧さがより印象に残りやすい)。そしてもう一つは、「当たり前のことを高いレベルでやり続ける、というのは仕事の上でもそう容易なことではない」ということだ。これは社会人であるならば、金銭をもらって仕事をしているのにもかかわらず、基本のキを自分が時に忘れてしまった経験や、あるいはそういう行動をしている人間を見た経験は1度や2度ではないはずで、容易に頷けるものだと思うがいかがだろうか。
話を戻すと、そういった事情で丁寧な下準備の元に行われる対談であるため、その相手は犬山たまきに信頼を置くし、信頼を置くからこそ踏み込んだ質問にも答えられる状況になり、それゆえに対談相手のおもしろい発言や魅力が引き出せて対談が成功するのであろう。そうすると対談相手を知らなかった視聴者は、対談相手の動画を見てみようという気になるのはもちろんのこと(これは私のケース)、対談相手のファンとして動画を見に来た視聴者も犬山たまきのチャンネルに登録するという構造になっているものと思われる。
さらに言えば、対談の成功は当該Vtuberとの信頼関係構築につながり、後のコラボ企画へ発展したり、その評判を聞いた別のVtuberとの対談が成立するなどしてより次々に広がっていくわけである(少し話は逸れるが、コンビを解散した中野が兎鞠まりとコンビを組むような形で現在躍進中なのを見ると、視聴者にとって選択肢が無限にある昨今、視聴に到るにはフックが必要であり、その意味で個人勢にとっての人脈は重要どころか、「生命線」ですらあることがわかる。ちなみに有名人との接点を持つことで自身の躍進に繋げるという動きは、以前述べたクリムゾンが有名人の似顔絵を書くことなども類似している)。
というわけで、犬山たまきチャンネルの躍進は、丁寧に準備された上での踏み込んだ対談とその面白さにその要因があると述べたが、これだけでは「海外リスナーが多いホロライブメンバー並に伸びた理由」には弱いように思える。そこで考えてみるに、
「巣ごもり需要→Vtuberを見るようになる人が増える→各々が自分の興味を引くVtuberを見たり登録したりする(そのVtuberは当然各々異なる)→非常に多くのVtuberと対談をしている犬山たまきチャンネルに各Vtuberの新規視聴者が集まってくる」
という構造ではないだろうか?つまり、AというVtuberのリスナーが1万人増え、BというVtuberのリスナーが2万人増え、CというVtuberのリスナーが3万人増えた際、その全員と対談している犬山たまきチャンネルにアクセスする可能性のある人数が総計6万人生み出され、そこから半分でも登録すれば、ABCの中で最も多い3万人の新規登録者を獲得できるという寸法である(もちろんこんな単純にいかないことは重々承知しているが、あくまで模式図としてご容赦いただきたい)。こう考えると、対談マイスター(?)の犬山たまきがホロライブメンバーと違って海外勢というブースト要因がないにもかかわらず、それと近しいレベルの躍進ができた理由も説明できるように思うがどうだろうか。
この見立てが正しいのであれば、これまでの丁寧な準備と興味を引く対談、そしてそれによる人脈の広がりに基づいた別のVtuberとの対談という地道な努力が、2020年の環境変化もあって一気に花開いた、と言えるのではないだろうか(つまり、老婆心ながら述べておくと、犬山たまきの躍進は自身の地道で継続的な努力の賜物であり、ゆえに「他のVtuberの人気を吸い取ることで成り立っている」がごとき評価は不当だ、ということである)。
さて、本来はここから犬山たまきの入念な下準備が、実は彼のパーソナリティとも深く関係しているのではないかという話を書こうと思っていたが、すでに相当な分量となっているため今回はここまでとしたい。
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