「紫電改」とは、旧海軍が従来の「紫電」戦闘機を改良し最後に開発した迎撃戦闘機だ。「零戦」より命中精度・火力が優れていることで、米軍はかなり警戒した戦闘機だった。その搭乗員の主人公・滝城太郎は奇想天外な行動で難局を乗り切る。
実在していた<源田実>司令(真珠湾攻撃を立案、アクロバット飛行でも有名。戦後は航空自衛隊育ての親であり国会議員ともなる。)が登場するのが意外だった。ストーリーは小学生でも楽しめるマンガチックなものだが、ちばてつやの優しさが溢れてくる。
それは表紙のイラストにも表れていて魅力的だ(2巻は表紙なし)。戦闘シーンも迫力ある描画であるのも見逃せない。『あしたのジョー』に出てくる<力石徹>のような登場人物も出てくるのも<ちばてつや>らしい。
最終巻には今まで触れてこなかった作者のいちばん言いたいことを台詞にしている。「数知れないほど多くの人間がこの戦争のために命をすてていった」と、平和への切実な希求を直截に訴えている。
そして戦後の滝城太郎は、教師となって「戦争というものがいかにおそろしいものか、二度と繰り返さないよう、教えてやるんだ」と結ぶ。
ちばてつやの人間を信じる心のルーツは、満州から引き揚げるときの出来事だ。父の同僚の中国人が屋根裏部屋に匿ってくれたおかげでいのちからがら日本に戻れたのだ。そうした想い入れが結実となったのが『あしたのジョー』なのだと理解した。