娘から「ぜひ観てよ」と強く言われたビデオがあって、あわててオンラインの「図夢(ズーム)歌舞伎」をパソコンで観る。コンビニを舞台に「弥次喜多」が登場する。市川猿之助が監督・脚本・演出をプロジュースしている。弥次さんが松本幸四郎、喜多さんが市川猿之助、リストラされた遊び人が市川中車という豪華顔ぶれだ。
そこに、コンビニで万引きしたという金髪・赤髪の不良二人組(染五郎・團子)の若手も加わる。疫病(コロナ禍)で困っている人や生き方に模索している不良への暖かいメッセージもこめられている。歌舞伎というとつい社会や大衆に迎合してしまうイメージが強いが、最近は、「アテルイ」「風の谷のナウシカ」など、虐げられた民衆の立場を代弁する内容も加わっている。いわば、前進座がこだわっていることをも軽快に取り入れるフットワークの良さが素晴らしい。
インタビューに応えた猿之助の次の言葉がすべてを語っている。「この作品で一番考えてほしいのは、果たして今私たちがいる文明はほんとうに正しいのか、自分たちの生き方がほんとうに正しいのか、地球をめちゃくちゃにして、疫病がはやって、これ人災じゃないのか! 自分たちの生き方がこのままでは滅びるぞっていうことをちょっと考えてもらいたい」と。
饒舌な遊び心に飽きてしまう場面もなくはなかったが、猿之助が問うメッセージは随所に感じられる。華々しい表面的な格好良さだけで勝負するだけでなく、こうした応援メッセージを取り入れていく柔軟さはこれからの歌舞伎のすそ野を広げていくに違いない。それはコロナ禍で公演できない状況をオンライン歌舞伎で切り返す発想からして新しい。それは演劇というジャンルを超えてしまうチャレンジ精神をもみなぎっている。つまりそれだけ自分の置かれている立場を追い込んでいくプロ精神があるからでもある。初めて見たオンラインだったがこれからが楽しみとなった。( 画像は、YAHOOニュース・CREAwebから)