ついこの間に放映していたNHKの「100分de名著」のテキスト『ディスタンシオン』を読み終えた。フランスの社会学者・ブルデュー(1930-2002)が1979年に著した名著だという。ディスタンシオンとは、フランス語で「区別」という意味。本書によれば、私的な趣味・嗜好・身のこなしなどの性向は、本人の学歴・出身階層などの社会構造によって規定されているという。難解な言葉がオイラの海馬の眠気を誘ったが、要するに「それはそうだな」と経験的に思う。
本書で飛び交う、文化資本・ハビトウス・「界」とかの見慣れない言葉と抽象的言葉に翻弄されたが、「趣味という私的な領域がいかに社会構造と結びついているか」ということに尽きる。それは、赤貧に育ったオイラが高校へ行ったとき、周りの生徒の言葉遣いや雰囲気に品格があったことが第一印象だったのを想い出した。しかしその「品」には、貧しさに育った者の辛さや怒りそして希望というものがわからない楽天性というものを内包していた。
それはブルデュー自身の生い立ちにも垣間見えた。その目でフランスの植民地アルジェリアの独立運動をも冷静に調査・分析している。それは本書の著者・岸政彦さんが沖縄の民衆とかかわっているのと似ている。そして何よりも、「他者の合理性」とは、「私の合理性」とは違うという指摘が鋭い。他人や民衆が「そうしてしまう」にはそれなりの「合理性」、「その人がその人である理由」があることを否定しない、という立場を保持している。それは膨大なインタビューから結論したものだけに説得力がある。
原書だったらとっくにお手をあげていた内容だったが、わかりやすいテキストのおかげでなんとかブルデューさんにアプローチできた気がする。テキストを送ってくれたコロナ禍で書斎に封じ込められた畏友のダビンチさんにこうべを垂れてやまない。