原題:『A Most Wanted Man』
監督:アントン・コービン
脚本:アンドリュー・ボーベル
撮影:ブノワ・ドゥローム
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン/レイチェル・マクアダムス/ウィレム・デフォー
2014年/アメリカ・イギリス・ドイツ
社会が改善されない原因について
ジョン・ル・カレの原作ということもあって『裏切りのサーカス』(トーマス・アルフレッドソン監督 2011年)のような複雑な物語を覚悟して観に行ったが、意外とあっさりとしたストーリーだったが分かりやすい。
主人公のギュンター・バッハマンはドイツのハンブルグで諜報機関のテロ対策チームを指揮する立場に置かれている。密入国した青年のイッサ・カルポフをイスラム過激派のテロリストと見なして捜査を始めたバッハマンのみならず、ドイツ諜報機関上層部のディーター・モールとアメリカの外交官のマーサ・サリバンたちもイッサに興味を示す。
しかし女性弁護士のアナベル・リヒターの介添えもあってイッサはテロリストではなく、父親が何をして稼いだのか分からないような大金には興味はなく、ただ自分の居場所を探し求めていたことが分かり、地元のイスラム教の慈善家であるジャマール・アブドラの良心にも賭けて、更なるテロ組織アルカーイダの大物を捕えようと目論んでいたバッハマンは、そのような事情を何も分かっていない者たちに邪魔をされてしまう。
実は驚くべきはこの後で、バッハマンは損傷した車を置き去りにして、茫然としている銀行家のトミー・ブルーや座り込んでいるアナベルに声をかけることもなく、新しい車に乗り換えて一人で運転してから、車を道路わきに停めて、降りて行ってしまう。別に抗議することもなく仕事に戻る様子に、これは組織内では上司に逆らえない部下たちの日常であることに驚かされるのである。