原題:『町田くんの世界』
監督:石井裕也
脚本:石井裕也/片岡翔
撮影:柳田裕男
出演:細田佳央太/関水渚/岩田剛典/高畑充希/前田敦子/池松壮亮/戸田恵梨香/松嶋菜々子
2019年/日本
逆説的な愛、あるいは愛の逆説性について
運動も勉強も苦手ながら家族のみならず困った人を見かけたら助けずにはいられない性格の町田一は、いつも保健室やプールで一人でいる同級生の猪原奈々と関わるうちに奈々の方が町田のことを意識しだすのであるが、人を好きになったことがない町田は奈々の気持ちがよく分からない。ところが氷室雄のために奈々が好きなものを訊こうとバスで乗り合わせた際に、町田自身が奈々のことを好きだったことに気づいたのみならず、人を好きになるということは、例えば、バスで立っている高齢者に気が付かなかったことから他人に気を配ることが疎かになるという事実にも気がついた町田は愕然とし、そのアイロニーがペーソスをもたらす。
さらに本作は主人公の2人の同級生の栄りらを演じた前田敦子の「ツッコミ」があってこそ2人の気持ちのズレの「可笑しみ」が活かされているように思えるが、残念なのは最後になって演出がファンタジーになってしまっていることで、最後までリアリティに徹して欲しかったと思うのは私だけだろうか?